出典: フォースタートアップス株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算説明資料」。以下、本記事の図表・数値はすべて同資料に基づく。
フォースタートアップス(東証グロース・7089)は、2016年設立の成長産業支援企業です。中核はスタートアップ・成長企業に特化した人材紹介(ヒューマンキャピタル事業)。そこに国内最大級のスタートアップ情報データベース「STARTUP DB」などのオープンイノベーション事業、ベンチャーキャピタル事業、そして新規事業のスタートアップM&A仲介を重ねる、「人材×データ×資本」の複合モデルを採ります。本社は麻布台ヒルズ、正社員271名。
当メディアの決算分析シリーズでは、JAC(ハイクラス両面型)、ギークリー(IT特化×分業)、ムービン(コンサル特化)と見てきました。フォースタートアップスは「業界」ではなく「企業の成長ステージ」で特化した点が独特で、支援難易度の高いハイレイヤー×スタートアップという領域で生産性を出せるか——が投資家にも業界にも問われ続けてきた会社です。今回の1Qは、その問いに対する現時点の答えです。
| 項目 | 2027年3月期 1Q | 前年同期比 | 通期進捗率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 15.4億円 | +38.3% | 24.1%(計画通り) |
| 売上総利益 | 12.7億円 | +37.9% | — |
| 営業利益 | 4.5億円 | +112.0% | 32.1%(計画超) |
| 経常利益 | 4.2億円 | +98.3% | 32.3% |
| 四半期純利益 | 2.8億円 | +87.2% | 30.1% |
| 受注高 | 16.4億円 | +20.6% | ヒューマンキャピタルは+25.0% |

増益の中身を分解すると、売上増+4.3億円に対してコスト増は△1.9億円(人件費△1.1億円・原価△0.8億円)。売上の伸びがコストの伸びを2倍以上上回ったことが、営業利益2.1倍の正体です。会社自身が「前年同期は生産性改善の道半ばだった反動増もある」と注記している点は誠実ですが、裏を返せば1年かけた生産性改善が計画を超えて実った四半期と言えます。


この決算で最も考察に値する図です。人材紹介の成約単価は1Qで460.8万円——前年同期の386.8万円から約2割の急上昇です。背景は決定年収の構成比で、年収1,000万円以上の決定が31.4%→44.9%へ跳ね上がりました。インフレと採用競争によるオファー年収の上昇、手数料率を引き上げた企業の重要ポジションでの成約増が重なった結果です。
興味深いのは会社の説明です。決算FAQで「当1Qの高単価は高年収帯の入社が偏った一過性のもので、基本的には前期の単価水準に落ち着く見通し」「単価は当社側でコントロールが難しい指標」と、自ら期待値を引き下げている。都合の良い数字を成長ストーリーに使わないこの抑制は、IRとして信頼できる姿勢です。同時に「ハイレイヤー注力の方針は不変で、急激な下落もない」とも明言しており、構造としての高単価シフト(業界全体の潮流)と、四半期のブレ(偶然)を切り分けて読む——まさに当シリーズが一貫して指摘してきた読み方を、会社自身が実演しています。

新規求職者面談数は+12.4%、面接設定UU数は+10.3%と入口の量は順調。一方で「1人あたり決定件数」は0.62→0.53へ低下していますが、これは新卒40名がまだ分母に乗っただけの想定内の動きです(算出定義まで開示している点も好感)。会社が課題として挙げるのは「面談から面接設定への転換率」——面談した求職者に最適な求人を提案しきれているか、という支援品質そのものです。
FAQでの回答が示唆的です。「一番大事な要素は、求人企業および案件への深い理解」——AIで効率化しつつも、転換率の肝は企業理解だと言い切る。これは当メディアのナレッジ「価値あるエージェントの7条件」の第一条(求人票に載らない情報を取りに行く)と同じ結論であり、上場企業のKPI課題として「企業理解の深さ」が語られているのは、業界全体にとって示唆的な開示です。
中期経営方針で最も野心的なのが、新規事業のスタートアップM&A仲介です。背景にあるのは構造変化——グロース市場の上場維持基準引き上げでスタートアップのIPO難易度が上がり、M&Aイグジットが主流化しつつある。IPOが細るならIPO前提の人材市場も変質する。その変化を脅威ではなく第2の柱に変えにいく打ち手です。
進捗は正直に開示されています。受託案件は累計15件、VCや金融機関からの紹介による案件流入は順調、三井住友銀行と共催カンファレンスも開催——しかし成約はまだゼロ。スタートアップM&Aは、株主・新株予約権者が多く利害調整が複雑で、足元業績に対してバリュエーションが高く、プロセスが長期化しやすい(FAQで自認)。事業承継M&Aより明確に難しい市場です。それでも同社には、祖業で培った経営者との信頼関係と人材によるバリューアップ支援という参入角度がある。人材紹介会社がM&A仲介に広がる——このモデルが成立するかは、業界全体のキャリアの選択肢にも関わる実験です。
もう2つ、小さいが意味のある動きがあります。①ベンチャーキャピタル事業で初のイグジットが実現(セカンダリー売却、2Qに売上0.48億円・粗利0.43億円を計上予定。当初投資時株価を上回る価格)。人材支援先に投資し、成長の果実を資本でも取るモデルが初めて一周しました。②取締役3名が総額上限1.5億円の自社株を市場買付(会社が資金を融資する設計)。株式報酬では効果が薄いと判断し、経営陣が自らリスクを取る形を選んだ——業績拡大へのコミットメントの見せ方として異例の一手です。

第10期(2026年3月期)で売上高50億円に到達し、次の目標は早期の売上100億円超え、そして2031年3月期までにプライム市場の変更基準を満たす事業成長。ヒューマンキャピタルでは政府が掲げる戦略17分野への支援拡大で「企業開拓による案件2〜3倍」の余地を見込み、AI活用と人材育成で「再現性のある成長」を目指すとしています。労働人口が減る中でもスタートアップの採用競争はむしろ活発化している——という会社の市場認識は、人材業界の構造的追い風とも整合します。
この決算の価値は「営業利益2.1倍」の派手さではなく、単価の上振れを自ら「一過性」と言い、課題の転換率を自ら開示する誠実なIRと、その上で示された生産性改善の実績にある。スタートアップ特化という最も難易度の高い市場で「再現性」という言葉を使えるようになったこと自体が進化だ。M&A仲介はまだ成約ゼロの賭けだが、IPO難化という構造変化に正面から張る姿勢は、この会社の存在意義そのものである。
現場への示唆は3つ。①単価460万円・決定年収1,000万円超が44.9%——スタートアップ紹介は「若手をベンチャーに送る安い市場」ではもうない。CxO・VPクラスの争奪戦であり、ハイレイヤー支援のスキルがそのまま活きる市場です。②転換率の肝は企業理解——上場企業がKPI課題の答えとして「案件への深い理解」を挙げた事実は、日々の企業ヒアリングの価値の証明です。③イグジット環境の変化を語れるか——IPO難化・M&A主流化はスタートアップ転職を扱うすべてのエージェントの前提知識になります。SO(ストックオプション)の価値の説明も、この構造変化を踏まえてアップデートが必要です。
JAC(ハイクラス両面型) / ギークリー(IT特化×分業型) / パーソルキャリア(doda・総合型) / ムービン(コンサル特化) — 5社を並べると、人材紹介ビジネスの勝ち筋が立体的に見えてきます。