転職市場の「今」を、毎月同じ物差しで測る定点観測——それが本連載です。単発のニュースは流れますが、同じフォーマットで積み上がる時系列は、読み返すほど価値が増す資産になります。毎号の構成は固定: ①ダッシュボード → ②今月の構造 → ③業種・職種の動き → ④来月の見通し → ⑤面談で使える一言。5分で市場観がアップデートできる設計です。
「雇用全体は横ばい、中途市場は過熱」の二極化が鮮明に。ハローワーク基準の有効求人倍率は1.18倍で足踏みする一方、中途採用のdoda転職求人倍率は2.71倍と高水準を更新。求人は前年比+17.2%で増え続けており、エージェントにとっては「求人はあるが、決められる人材が足りない」市場が続きます。
出典: パーソルキャリア「doda転職求人倍率レポート」(2026年8月20日発表)、厚生労働省「一般職業紹介状況」・総務省「労働力調査」(2026年8月28日発表)
| 指標(2026年7月) | 今月 | 前月差 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| doda転職求人倍率 | 2.71倍 | +0.16pt | 中途市場の需給。転職希望者1人に2.7件の求人。求人+0.9%×希望者▲5.0%で倍率が跳ねた |
| 有効求人倍率(季調) | 1.18倍 | 横ばい | ハローワーク基準の雇用全体。26年は1.17〜1.18倍のレンジで足踏みが続く |
| 新規求人倍率(季調) | 2.10倍 | ▲0.06pt | 先行指標。新規求人(原数値)は前年比▲0.8%と2ヶ月ぶりの減少 |
| 完全失業率(季調) | 2.4% | ▲0.1pt | 1年ぶりの低水準。完全失業者167万人(季調)。労働市場の締まりは継続 |
今月最も重要なのは、2つの倍率の乖離です。ハローワーク基準の有効求人倍率は1.18倍で頭打ちし、新規求人は前年比マイナス圏に沈む月も出てきました。日経の報道では、宿泊・飲食の新規求人が前年比▲10.7%——DXによる省人化で「人を採らずに回す」動きが非正規・オペレーション領域で始まっていることが示唆されています。
一方、中途採用(doda)の求人は前年比+17.2%と2桁成長を続け、倍率は2.71倍へ上昇。製造業ではAI・半導体関連の需要が堅調で、求人増加の業種はエネルギー(前月比+3.8%)・商社(+2.0%)がリード。つまりいま起きているのは、「量の雇用」は省人化で締まり、「質の雇用(経験者・専門人材)」は取り合いが激化する構造分化です。エージェントのビジネスは後者にあり、市場の追い風はむしろ強まっている——これが数字の結論です。
新規求人(原数値)の前年比マイナス(▲0.8%)は、景気の先行指標として無視できません。生成AIによる求人減は、事務・オペレーション職から静かに始まります。ハイクラス・専門職は当面無風ですが(JACも1Qで「高額年収帯への影響はほぼなし」と明言・詳細は決算ウォッチ)、若手・第二新卒の「未経験可」求人の質は今後低下しうる。担当領域によって見える景色が全く違う月です。
| 動き | 中身(2026年7月・doda) |
|---|---|
| 求人が増えた業種 | 12業種中10業種で前月から増加。増加率トップはエネルギー(+3.8%)、次いで商社(+2.0%)。6月はIT・通信(+5.4%)がトップで、AI・半導体・GX関連の投資が求人を押し上げる構図が継続 |
| 求人が増えた職種 | 11職種中10職種で増加。トップは事務・アシスタント(+5.1%)、専門職・化学/食品(+4.9%)。事務系は「増えているが、AIによる中期的な構造変化リスクも最も大きい」両面で読む |
| 転職希望者 | 前月比▲5.0%(前年比では+4.8%)。夏季休暇前の活動一服。「動いている候補者が少ない今こそ、1通のスカウトの相対価値が上がる」時期 |
パーソルキャリアは、7〜8月は夏季休暇で転職希望者が一時減少し、倍率はさらに上昇すると見通しています。エージェントの実務では、①お盆明け〜9月は「動き出し」の候補者が一斉に戻る繁忙期、②求人側は下期予算での採用計画が固まる時期であり、8月中に企業側の要件を握り直しておくと9月の決定率が変わります。次号(10月頭)では8月データと上期の振り返りを扱います。
| 相手 | 使える一言 |
|---|---|
| 迷っている候補者に | 「転職希望者1人に対して求人は2.7件、この1年で求人は17%増えました。選べる側にいる今と、市場が冷えてから動くのとでは、取れる選択肢の数が違います」 |
| 若手・事務系の候補者に | 「事務系の求人はいま増えていますが、AIによる省人化が最初に来るのもこの領域です。『何の専門性を足すか』を今のうちに決める転職にしませんか」 |
| 採用に悩む企業側に | 「失業率2.4%・中途倍率2.71倍の市場で、待ちの採用は構造的に負けます。要件の優先順位付けと、スカウトを含めた攻めのチャネル設計から一緒にやらせてください」 |
doda転職求人倍率=doda登録の転職希望者1人あたり求人数(中途市場の体感に近い)。有効求人倍率=ハローワークの求職者1人あたり求人数(雇用全体・パート含む)。2つの乖離が「中途市場だけの過熱/冷え込み」を教えてくれます。発表スケジュールは毎月、dodaが第3週・厚労省/総務省が月末。本連載は両方が出揃った月初に更新します。
市場全体の構造はダイレクトリクルーティング市場の分析、この市場で勝つ実務はスカウト返信率10倍の設計へ。企業側の動きは人材大手 決算ウォッチと併読してください。