THE AGENTナレッジ営業から人事への転職【完全版】
Career Knowledge

営業から人事への転職【完全版】
— 未経験4ルート・5つのロジック・ロールモデル

2026.07.28 公開|THE AGENT編集部

「営業はもう十分やった。次は人事に行きたい」——面談でこの相談を受ける機会は、確実に増えています。そして多くのエージェントが、この相談にうまく答えられていません。未経験転職の壁をどう越えるのか、どのルートが現実的なのか、営業経験の何が武器になるのか。本稿は、その全てに答える営業→人事キャリアチェンジの完全設計図です。

前提となる「人事職の全体像」は姉妹編「人事職の全体地図【完全版】」で解説しています。本稿はその地図の上で、営業職がどう動くべきかに集中します。

Summary
  • 営業→人事の最有力の入口は採用(リクルーター/TA)。ソーシング=新規開拓、面接=商談、オファー=クロージング——採用は営業と同型の仕事であり、未経験職種の中で最もスキルが直輸入できる。
  • ルートは4本。①社内異動(営業実績→採用担当抜擢)、②ベンチャーでの営業×採用兼務、③転職(直接応募/エージェント経由)、④人材業界を挟む2ステップ。ITメガベンチャーのリクルーターの約半分は人材業界出身とされ、④は遠回りに見えて最も再現性が高い。
  • ただし未経験の即戦力転職は難しく、年収の一時ダウンや、まず採用オペレーションから入る現実は誠実に伝える。それでも「人的資本経営×人手不足」の追い風は構造的で、5〜10年目線の期待値は高い。

Chapter 1結論 — 営業→人事は「王道なき王道」である

一言で

人事に「新卒からの生え抜き王道」はほぼ存在しません。日本の人事は異動と転身で作られてきた職種であり、その中で営業出身は最大勢力の一つ。つまり「未経験だから無理」ではなく「入口の選び方を間違えなければ通る道」です。

ポイントは、人事の6機能(姉妹編・図1)のうちどこから入るかです。労務・制度は法知識と実務の積み上げ型で、未経験の営業には遠い。一方で採用(TA)とHRBPは、対人折衝力・目標達成力・事業理解という営業の中核能力がそのまま通貨になる領域です。だから戦略は一つに絞られます——採用から入り、TA・HRBPへ広げ、CHROを目指す。本稿はこの一本道を最短で歩く方法論です。

Chapter 2営業経験はなぜ武器になるのか — 採用は営業の同型問題

「未経験です」と言う必要はありません。採用のプロセスを営業のプロセスに重ねると、ほぼ全工程が対応します。

図は横にスクロールできます
営業のプロセス リスト作成・新規開拓ターゲティング/アプローチ 商談・ヒアリング課題把握/提案 クロージング条件交渉/意思決定支援 数字管理・改善パイプライン/歩留まり ▼ 同じ構造 ▼ 採用のプロセス ソーシングスカウト/母集団形成 面接・面談見極め/動機づけ オファー・承諾条件設計/意向上げ 採用KPI管理応募→内定→承諾の歩留まり 違いは2つだけ — ①「売る商品」が求人と会社になる ②買い手(候補者)の人生がかかっている この2つの違いを理解している営業は、初日から採用で戦力になる。だから「未経験」ではなく「実務の翻訳前」と言うべき
図1: 営業と採用の同型対応 — スキルは直輸入できる(編集部作成)

面接で語るべきは、この対応関係の上に載せた実績です。「新規開拓で受注率を◯%改善した」は「スカウト返信率を改善できる」に、「失注理由を分析して提案を変えた」は「辞退理由を分析して選考体験を変えられる」に翻訳できる。翻訳の技法そのものは「営業の再現性は定数と変数で作る」のフレームがそのまま使えます。

Chapter 3候補者を動かす5つのロジック — 世の中の背景から語る

「なぜ営業の次が人事なのか」。候補者自身が腹落ちし、面接官にも語れる論理を5つ用意しました。面談ではこのまま使ってください。

ロジック中身と語り方
① 人が最後の経営資源モノ・カネ・情報の調達はコモディティ化し、企業の差がつく最後の変数が「人」になった。人的資本の開示義務化(2023年〜)はその制度的な証明。「経営に近づきたい」なら、事業部長への道と並ぶもう一本の登山道が人事
② 採用力=事業の成長上限人手不足の時代、事業計画は「人が採れる前提」でしか描けない。採れる人事は、売れる営業と同じくらい直接的に事業を伸ばす。Amazonが「自分より優秀な人を採る」ことを採用の規律にしてきたように、一流企業ほど採用を経営の中心に置く
③ 戦略人事への構造転換労務・制度運用はSaaSで自動化が進み、人事の価値は戦略人事(採用戦略・HRBP・組織開発)へ集中していく。この領域の人材は市場に決定的に足りておらず、今から入る人ほど先行者利益が大きい
④ 35歳以降の安全網営業のキャリアは35歳を境に「マネジメントに上がるか、単価の高い商材へ移るか」の二択に狭まりがち。一方、人事の専門性は年齢とともに価値が積み上がり、どの会社にも必ずポジションがある。キャリアの可搬性・持続性という保険として最強クラス
⑤ プロアクティブ採用の時代ダイレクトリクルーティングの拡大で、企業は「待つ採用」から「獲りにいく採用」へ移行中(市場分析)。スカウト設計・候補者との関係構築という攻めの採用スキルを持つ人材が最も希少で、営業出身・人材業界出身が最短でそこに立てる
使い分けの早見表

上昇志向の強い候補者には①②(経営への道)、安定志向には④(安全網)、市場価値で動く候補者には③⑤(希少性)——同じ事実でも、候補者の軸に合わせてどのロジックを先に出すかで刺さり方が変わります。軸の見立ては面談術のWill・Can・Mustで。

Chapter 4未経験ルート4本の徹底比較

図は横にスクロールできます
現職: 営業実績とストーリー 事業会社の人事採用 → TA/HRBP ルート① 社内異動(採用担当に抜擢) — 転職せずに実績を作る最短路 ルート③ 転職(直接応募 / エージェント経由) — ポテンシャル枠を突く ベンチャー(50名規模)営業×採用兼務(2〜3割) ルート② 兼務で入る 人材業界(RA/両面CA)採用実務を仕事として習得 ルート④ 2ステップ ITメガベンチャーのリクルーターの約半分は人材業界出身
図2: 営業→人事の4ルート(ASSIGN社の整理を基に編集部作成)
ルート向く人・成功条件エージェントの打ち手
① 社内異動現職で営業実績が出ている人。採用が経営課題の年に、トップ営業がリクルーター抜擢される王道。転職不要でリスク最小・実績が最速で作れる「まず社内で挙手できないか」を必ず先に検討させる。1〜2年の採用経験がつけば、次の転職市場での値段が別物になる
② ベンチャー兼務50名前後の会社では専任リクルーター不在が多く、営業をしながら工数2〜3割で採用を兼務できる。挑戦ハードルはあるが人事への扉が開く求人票に「採用兼務」の文字がなくても、面接で「採用に関わりたい」と交渉可能。ベンチャー求人の隠れた価値として提案する
③ 転職(直接/エージェント)第二新卒〜20代後半のポテンシャル枠、または急拡大企業の採用担当求人。直接応募は熱意が伝わる反面、要件のすり合わせ・年収交渉・選考対策は独力になるエージェント経由の価値は「未経験可求人の目利き」「営業実績の翻訳支援」「入社後のミスマッチ防止」。この3点を明確に提供できないなら直接応募に負ける
④ 人材業界2ステップRA(法人担当)・両面型エージェントとして働き、母集団形成・ペルソナ設計・採用ストーリー構築を仕事として毎日訓練してから事業会社人事へ。遠回りに見えて最も再現性が高く、TA志向なら事実上の最短路「人材業界→事業会社TA」は実績豊富な鉄板ルート。エージェント自身のキャリアでもある(ネクストキャリア論)。2社先まで描いた提案ができると強い

Chapter 5ロールモデル3例 — 実際のキャリアの絵

編集部が実際の転職市場でよく見る型を、3つのモデルケースに再構成しました(特定の個人ではありません)。

モデルキャリアの流れ
A. 広告営業→SaaS採用→HRBP(20代後半〜)広告代理店営業5年(新規開拓で表彰)→急拡大SaaSの中途採用担当へ転職(年収は550万→520万に一時ダウン)→スカウト返信率改善と採用単価削減で実績→3年でTAマネージャー、5年目にHRBPへ。「採用で数字を作り、組織側へ広げる」王道形
B. 人材RA→メガベンチャーTA(2ステップ型)金融営業3年→人材紹介のRAへ転職し、担当企業の採用課題を2年間支援→支援先だったITメガベンチャーのTAポジションへ。エージェント時代の「企業側の採用を外から回した経験」がそのまま職務経歴になった典型例
C. 社内異動→人事部長(転職しない型)メーカー法人営業8年→全社採用強化の号令で新卒採用担当に異動→制度改定プロジェクトに参画し人事企画へ→45歳で人事部長。1社の中で6機能を横断した深さが強みで、転職市場でもCHRO候補として評価される

Chapter 6準備 — 今日から積める「人事の実績」

転職活動を始める前に、現職のまま積める実績があります。面接で「未経験ですが」と言わずに済むための仕込みです。

今日からできること面接でこう語れる
リファラル採用への協力「知人を2名紹介し1名入社。候補者の動機形成から会食セッティングまで自分で設計した」
面接への同席・現場面接官「営業職の一次面接官として年間◯名を担当。見極め観点を人事とすり合わせた」
採用広報・登壇「会社説明会で現場登壇。参加者アンケートの志望度を◯%改善」
後輩育成・オンボーディング設計「新人の立ち上げ設計を任され、初受注までの期間を◯ヶ月短縮」= 育成(L&D)の実績
知識の土台づくり労働法の基礎・採用市場データの定点観測・キャリアコンサルタント資格の学習など。「入口の学習」を始めている事実自体が本気度の証明になる

Chapter 7注意点 — 誠実に伝えるべき現実

現実伝え方
即戦力にはなれない会社への深い理解・人事の専門知識は入社後にしか積めない。最初の1年はオペレーション(日程調整・媒体運用・データ整備)の比重が高いことを覚悟してもらう
年収は一時ダウンしうる営業のインセンティブ分が消え、初年度は▲50〜100万円程度の調整が起きやすい。ただしTA・HRBPへ上がれば回収可能(相場は姉妹編Chapter 6)。5年の期待値で意思決定させる
「人が好き」は志望動機にならない面接で最も落ちる動機。「事業を人の面から伸ばしたい」+営業実績の翻訳で語る。動機設計は初回面接の設計と同じ構造
労務・制度志向なら別ルート本稿の戦略は採用起点。労務・制度を目指すなら社労士学習など積み上げ型の別設計が必要で、営業経験の優位性は小さい

Conclusionエージェント視点のまとめ

営業→人事は、感覚で語ると「未経験だから厳しい」で終わり、構造で語ると「4本のルートがある」に変わる相談です。①まず社内で積めないかを確認し、②5つのロジックで本人の軸に合う理由を言語化し、③4ルートから現実的な一本を選び、④営業実績を採用の言葉に翻訳して送り出す。ここまで設計できるエージェントは、候補者にとって単なる求人紹介者ではなくキャリアの建築士です。マーケティング志望版の設計図は「営業からマーケティングへの転職」、キャリア論の土台は「エージェントが知るべきキャリアの話」へ。

出典・注記
  • 未経験ルートの整理はASSIGN社公開コラム(社内異動・ベンチャー兼務・人材業界経由の3パス、ITメガベンチャーのリクルーターの約半分が人材業界出身との整理)を基に編集部が拡張
  • 人事の役割・キャリアパスはJMAM公開コラム、人的資本開示は2023年3月期からの義務化に基づく。年収・ロールモデルは転職市場の一般的な傾向を編集部が再構成したものであり、特定個人・特定企業の事例ではありません