東京大学発のAIスタートアップ「燈(あかり)」の創業者で、代表取締役社長兼CEOです。1999年生まれ。東大在学中の2021年2月、21歳で燈を創業し、建設業向けのAIから始めて、創業5年で企業評価額1,000億円超の会社に育てました。
野呂侑希(のろ・ゆうき)は、「日本を照らす燈となる」を使命に掲げるAIスタートアップ燈(あかり)の創業者です。
社名は漢字一文字の「燈」。毎日の夕会では、全員で大きな声を出して一日を締めくくる。最先端のAIを扱う会社でありながら、その組織は驚くほど「和」の顔をしています。この記事では、その会社をつくった26歳の経営者、野呂侑希氏の歩みと考え方を、本人のnoteやインタビュー、報道をもとに整理します。
野呂氏は、1999年に東京で生まれ、横浜で育ちました。少年時代はサッカーに打ち込みましたが、世代別の日本代表クラスの選手と対戦するなかで才能の差を感じ、競技に人生を賭けることをあきらめます。本人はnoteで、その後も「人生を賭けられる何か」をずっと探していたと振り返っています。
それを見つけたのが、東京大学に入学するころでした。尊敬する起業家の文章や、同世代のサッカー選手が世界の舞台で活躍する姿に刺激を受け、「この世界なら一番になれるかもしれない」と起業家の道を選びます。所持金がほとんどない状態で実家を出て、住み込みのインターンで生活をつなぎながら、ビジネスの現場に飛び込みました。
人材会社はうまくいっていたが、ネット上で完結し「人の役に立つ実感」が薄かった。次の会社の条件を「役に立つ実感」と「知的好奇心」の2つに決めた。
松尾研究所でAIを学び、ディープラーニングが世界を変えると確信。データが複雑でAI化が遅れていた建設業を、あえて最初の舞台に選んだ。
2024年の時点では外部からの資金調達をせずに事業を伸ばしていた。その後、2026年1月に三菱電機から50億円を調達した。
とりわけ大きいのが、1つ目の転機です。野呂氏は燈を創業する前に、人材会社の代表を務めていました。事業は順調でしたが、広告で人を集めてネット上で送り出すモデルは、人と直接関わることが少なく、社会の役に立っている実感を持ちにくかったと語っています。そこで次の会社では、「人の役に立つ実感が持てること」と「知的好奇心が満たされること」の2つを条件に決めました。この2つを満たす答えが、AIなどの先端技術で既存の産業を変えるという、燈のコンセプトでした。
2021年、燈は建設業にフォーカスしてAIの事業を始めました。建設業は、設計データや3Dモデルなど、Web上にはない機密性の高いデータが多く、種類も複雑です。だからこそAIの活用が遅れており、技術に自信のある燈が独自の立ち位置を取れると考えました。
最初の顧客は、スーパーゼネコンの大成建設でした。業界の上位にいる会社と取引できれば、その動きが業界全体に広がっていくという仮説から、意図してアプローチしたそうです。まだ学生だった野呂氏たちに、大成建設の責任者は可能性を賭けてくれました。
もう一つの理由は、建設業がほぼすべての産業の入口になることです。製造業には工場、物流には倉庫、医療には病院があります。建物のデータを扱えるようになれば、ほかの業界にも広げていける。実際、燈はいま製造・物流・卸売・小売へと領域を広げています。
出所:燈株式会社 プレスリリース、本人のnote。
| 事業 | 内容 |
|---|---|
| AI SaaS | 建設業向けの「Digital Billder」シリーズ。見積・発注・請求などのプロダクトが互いにデータ連携する。建設業特化のAI秘書「光/Hikari」も提供 |
| DXソリューション | 自社のAIモジュールを顧客の業務に合わせて組み合わせ、業務の効率化を支援する |
| フィジカルAI | AIでロボットや機械を動かす領域。2026年に三菱電機と提携し、本格参入 |
燈の成長を示す数字も並びます。日本経済新聞によると、約200人いるエンジニアの約4割が東京大学の出身です。2026年上半期のスタートアップの資金調達額ランキングでは、燈が4位に入ったと報じられています。
燈の組織を象徴するのが、「燈道(あかりどう)」と呼ばれる価値観です。中心にあるのは「志がすべて」という考え方で、それを5つの行動指針に落とし込んでいます。ミッションではなく「使命」という日本語を使うのも、日本人にとって直感的に分かりやすいからだと語っています。
| 燈の組織の特徴 | 内容 |
|---|---|
| 社名「燈」 | 元気のない日本を明るく照らす存在になりたい、という思いから。サッカー日本代表のように、国中から応援される会社を目指す |
| 毎日の夕会 | 行動指針の一つを選び、その日に実行できたことを社員が発表。最後は全員で「志がすべて!」と声を出して締める |
| 一体感の設計 | 声を出すのは好き嫌いの問題ではなく、強い組織に必要な一体感をつくるための手段だと位置づけている |
| 嫌われても前に進む | 社員に好かれるためではなく、会社が成長するための最適な判断をするのが経営者の役割だと語る |
野呂氏は、個人的な野望として「100兆円の壁を超える会社」を掲げています。1兆円、10兆円の会社は日本に数えるほどしかなく、100兆円の会社はまだ存在しない。だからこそ志は大きく持ちたい、という考えです。上場についても、それ自体を目的にせず、使命を実現するための手段の一つだと位置づけています。
燈は、あらゆる職種で採用を進めている急成長企業です。候補者に紹介するときは、次の点を押さえておくと、ミスマッチを防げます。
| 見られること | 内容 |
|---|---|
| 使命への共感 | 「日本を照らす燈となる」に心から共感できるかを最も重視。学歴や職歴はあまり関係ないとしている |
| エネルギーと覚悟 | 最終面接には社長が同席し、どんな気持ちで仕事に向き合う人かを見ている |
| 心の若さ | 学ぶことに前向きで、未知の挑戦に前のめりになれるか。40代半ばで元大手銀行の支店長が入社し、マネージャーとして活躍した例も |
| 肩書きではなく実力 | 経験豊富な人をいきなり経営層に置く人事はしない方針。成長とともにポジションが増えていく |
出典:野呂侑希「5年経った今でも世界一という夢を」(note、2026年1月30日)/ThinkD「宇宙建設からAIまで。燈が目指す100兆円企業への道」(2024年12月18日)/GLOBIS 知見録 プロフィール/燈株式会社 プレスリリース(2026年1月・7月)/日本経済新聞の報道(2023年7月、2026年3月ほか)。インタビューの内容は取材当時のものです。
野呂侑希は、東大在学中に人材会社の代表を経験し、「人の役に立つ実感」と「知的好奇心」を求めて、21歳でAIスタートアップの燈を創業した。AI化が遅れていた建設業を頂点の大成建設から攻め、建物を入口にほかの産業へと広げ、創業5年で評価額1,000億円超の会社に育てた。「志がすべて」を掲げ、100兆円企業という大きな志を追い続ける経営者である。
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