候補者が求人を受けない理由の多くは、求人の中身ではなく送るタイミングにあります。求人は、業界への納得と、求人の条件の合意ができてから送るもの。先に送った求人は、どれだけ魅力的でも「押しつけ」に見えてしまいます。
エージェントは、初回面談、2回目、3回目と面談を重ねながら、最終的に候補者に求人を受けてもらうことを目指します。ところが、ここで多くのエージェントがつまずきます。魅力的な求人を送ったのに、受けてもらえない。
私は両面型のエージェントとして、企業と候補者の両方を見てきました。その経験から言えるのは、受けてもらえない原因の多くは、求人の良し悪しではなく「いつ、どの順番で送ったか」にあるということです。この記事では、求人票を送るタイミングの考え方を、具体的な場面とともに整理します。
ありがちな場面から始めます。初回面談で、候補者が「コンサルに行きたいです」と話したとします。経歴を聞いたエージェントは、正直に「今の経験だと、コンサルは難しいと思います」と伝えます。そして、代わりに人材業界の求人を紹介する。
ここまでは、よくある流れです。問題は、その次に起きることです。
紹介した人材業界の求人が、どれだけ魅力的でも関係ありません。候補者の頭の中では、まだ「コンサルに行きたい」が生きています。そこに別の業界の求人が届くと、それは「自分の希望を否定されたうえで、別のものを勧められた」という体験になります。本人の中に納得感がないので、受けないという選択になる。求人が悪いのではなく、届けるタイミングが早すぎたのです。
では、どうすればいいのか。大事なのは、求人を送る前に、次の状態を作っておくことです。
年収・働き方・成長・事業。本人の言葉で整理する
「なぜ〇〇さんならこの業界か」が腑に落ちるまで急がない
業界の中の、会社・職種・条件の基準をそろえる
「この基準で探していいですか?」と確認する
定義を満たす求人だけを、定義の言葉とともに
このとき、求人は「答え」ではなく「確認」になります。候補者は、自分で決めた基準に合う求人が届いたことを確かめるだけです。だから、受けるかどうかの判断が早く、迷いも少なくなります。
コンサルを希望していた候補者の例でいえば、「コンサルに行きたい理由」を掘ると、「経営に近い仕事がしたい」「成長の速い環境にいたい」といった本音が出てくることがあります。その本音を満たす道として、人材業界がなぜ合うのかを説明する。本人が「確かに、それなら人材業界も選択肢だ」と腑に落ちてから、初めて求人を出します。
このことを、もう少し極端な例で考えてみます。求人票に「残業80時間」と書かれている会社があったとします。具体的な会社名は出しませんが、実際にそういう求人はあります。
この数字だけを見れば、普通は「行きたくない」と感じます。それが自然な反応です。しかし、その会社の事業や業界がとても良く、そこで描けるキャリアや将来性も大きい。そして、候補者が今回の転職で大事にしたいこと、改善したいことを網羅的に満たしている。ただ、それを実現するために、働く時間が一定多い。そう定義できた場合はどうでしょうか。
目に入るのは、残業の数字だけ。判断の軸は「条件の良し悪し」になる。
開いた瞬間に候補から外すそのうえで、実現のための働き方として残業80時間(実態は企業に確認済み)。
納得したうえで、自分で判断する定義と合意ができていれば、「受ける」という選択になるかもしれません。もちろん、それでも「受けない」という判断もありえます。大事なのは、どちらになっても本人が納得して選んでいることです。逆に、定義をしないまま数字だけが届けば、受けないという選択にしかなりません。それは、候補者にとっても企業にとっても、もったいないことです。
もう一つ大切なのは、求人票の数字の実態を確かめることです。同じ「残業80時間」でも、中身はまったく違うことがあります。
こうした実態は、求人票からはわかりません。企業の担当者や、現場で働く人に確かめて初めて見えてきます。両面型のエージェントであれば、企業側の担当として直接聞くことができます。分業型であっても、企業担当と連携して確かめることはできます。
今は、候補者が自分で求人を探せる時代です。求人サイトもスカウト媒体もあり、求人票そのものは誰でも見られます。だからこそ、求人票をそのまま転送するだけのエージェントに、価値はありません。
エージェントの価値は、情報を持っていることではなく、情報に意味をつけて、適切なタイミングで届けることにあります。
| 情報を流すエージェント | 意味づけて届けるエージェント | |
|---|---|---|
| 求人を送るタイミング | 面談の直後、すぐに大量に | 業界の納得と条件の合意ができてから |
| 送る求人 | 条件が合いそうなもの全部 | 一緒に決めた定義を満たすものだけ |
| 添える言葉 | 「ご興味あればご応募ください」 | 「〇〇を大事にしたいという話から、この求人を選びました」 |
| 求人票の数字 | そのまま渡す | 実態を確かめ、意味をつけて伝える |
| 候補者の受け止め方 | 「また求人が来た」 | 「自分のことを考えて選んでくれた」 |
ここまでの考え方を、面談の回数に落とし込むと次のようになります。すべての候補者にこの通り進むわけではありませんが、「求人を出すのは、業界の納得と条件の合意の後」という順番だけは崩さないようにしています。
| やること | 求人の扱い | |
|---|---|---|
| 初回面談 | 転職で大事にしたいこと・改善したいことを掘る。業界の仮説を持つ | 送らない。見せるとしても「例えばこういう会社があります」と、考えるための材料として1〜2件まで |
| 2回目 | 業界を訴求し、「なぜ〇〇さんならこの業界か」を腑に落とす。求人の条件を一緒に定義する | 定義と合意ができたら、条件を満たす求人に絞って送る |
| 3回目以降 | 応募するかどうかを決める。懸念(残業・年収・将来性など)を実態で解消する | 実態を確かめた情報を添えて、判断を支える |
急いで求人を出したくなる気持ちは、よくわかります。求人を出さないと、面談が進んでいないように感じるからです。しかし実際には、業界の納得と条件の合意に時間を使ったほうが、応募までの時間はむしろ短くなります。送った求人が一発で受けてもらえるからです。
最後に、実際の面談で使っている言葉をいくつか紹介します。
「〇〇さんがコンサルに行きたい理由を聞いていると、経営に近いところで、成長の速い環境にいたいということだと思いました。それなら、実は人材業界も合っていると思っています。理由をお話ししてもいいですか?」
「求人を探す前に、基準をそろえさせてください。今回いちばん大事にしたいのは〇〇で、ここは譲れない。逆に△△は、良い会社なら少し我慢できる。この理解で合っていますか?」
「この会社は、求人票だと残業が多く見えます。ただ、〇〇さんが大事にしたい△△は全部そろっています。実態も企業に確認しました。そのうえで、受けるかどうかを一緒に考えたいです。」
求人は「答え」ではなく「確認」。大事にしたいことを言葉にし、業界を正しく訴求して腑に落としたうえで、求人の条件を定義し、合意してから送る。求人票に書いてあることが全てではないからこそ、情報を勝手に流さず、意味をつけて届ける。そこにエージェントの価値がある。
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