「担当が変わった途端に連絡が雑になった」。引き継ぎの失敗は、新担当の能力ではなく、引き継がれた情報の質と、移行の設計で決まります。
候補者にとって、エージェントとの関係は会社とではなく個人と結ばれています。担当変更とは、候補者側から見れば「信頼をゼロから作り直せ」という一方的な要求です。新担当からの初回連絡が「はじめまして。ご希望条件を改めて伺えますか」だった瞬間、候補者は悟ります:自分の話は引き継がれていない、と。
つまり引き継ぎの敗因は、情報の欠落そのものより、「もう一度同じ話をさせられる」体験にあります。逆に言えば、新担当が前回の面談の言葉を引いて話し始めれば、信頼の大部分は移植できます。
引き継ぎ資料の価値は量ではありません。①事実(経歴・条件・選考状況)②本人の言葉(「上司の承認を4つ通さないと動けないのがしんどい」のような原文)③関係の文脈(響いた提案・地雷・連絡の好み・約束したこと)。この3層のうち、通常のCRMに残るのは①だけで、離脱を防ぐのは②と③です。
「約束したこと」は特に重要です。「次の面談で◯◯業界の求人を持ってくると言った」「入社1年目の年収シミュレーションを送ると約束した」。旧担当の約束を新担当が果たすと、関係は会社への信頼に昇格します。逆に約束が消えると、個人への信頼ごと消えます。
| 層 | 内容 | 引き継ぎでの役割 |
|---|---|---|
| 事実 | 経歴・条件・選考状況・履歴 | 最低限の土台(これだけでは信頼は移らない) |
| 本人の言葉 | 印象的な発言の原文・転職理由の深層 | 「分かってくれている」の再現に必須 |
| 関係の文脈 | 響いた提案・NG・連絡の好み・未履行の約束 | 地雷回避と、約束の履行による信頼昇格 |
可能な限り、旧担当が同席する三者接点(15分のオンラインで十分)を設けます。型はこうです:旧担当が「◯◯さんの状況と大切にされていることは、△△(新担当)に全て共有しました。△△は□□領域に私より詳しいので、むしろ心強いはずです」と、情報の完全移転の宣言と、新担当への信頼の付与を本人の前で行う。新担当は、引き継いだ内容の要約を自分の口で話し、認識のズレを本人に修正してもらう。
退職に伴う引き継ぎで三者接点が難しい場合も、旧担当名義の丁寧な引き継ぎ連絡(共有済みの内容の要約つき)を最後の仕事にします。黙って担当が変わる「サイレント引き継ぎ」が、最も離脱を生みます。
新担当の初回連絡は、要約と約束の履行から始めます。「前任から、◯◯を大切にされていると伺っています。まず、お約束していた△△をお送りします」。そして最初の30日は、接点頻度を通常より上げる。関係の信頼が薄い期間は、レスポンスの速さと約束の正確さという「行動の信頼」で埋めるしかないからです。
企業側の引き継ぎも構造は同じです。求人ヒアリングシートの裏メモ(本音の要件・面接官の癖・過去の見送り理由)ごと引き継ぎ、初回は可能なら訪問かオンラインで顔合わせを設定する。「担当が変わるたびにゼロから説明させる紹介会社」という評価は、求人の質と量に直結して返ってきます。
引き継ぎの成功 = 日常の記録(3層) × 三者接点での信頼の付与 × 30日の高頻度フォロー。引き継ぎはイベントではなく、日頃の記録運用の成果発表である。
引き継ぎで運ぶべきは情報ではなく関係の記憶。本人の言葉と約束を記録し、三者接点で信頼を紹介の形で渡し、30日は頻度で埋める。最悪のサイレント引き継ぎだけは、どんなに忙しくても避ける。
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