決定が消える最後の谷が退職交渉です。候補者は交渉のプロではありません。切り出し方・引き止めへの返し・スケジュールを事前に装備させることで、この谷の事故率は大きく下がります。
退職の意思表示は、上司への「相談」ではなく「決定の報告」として行うよう指導します。「◯月末で退職することを決めました。本日はそのご報告です」。結論を先に、理由は簡潔に、転職先は言わない(詮索と妨害の材料になるため)が基本形です。
タイミングは、就業規則の予告期間(多くは1ヶ月前)+引き継ぎを踏まえ、入社日から逆算して設計します。切り出しの台本と日程を、承諾の翌週までにCAと一緒に作る。これが退職支援の初動です。
①条件型(昇給・昇進の提示):「評価いただけるのは嬉しいですが、待遇が理由ではないので、決断は変わりません」。転職理由の原点(意思決定支援で言語化済みのもの)に戻る返しが最強です。②情型(「君がいないと回らない」):「そう言っていただけるからこそ、引き継ぎは全力でやります」。感謝で受けて、決定は動かさない。③不安型(「次では通用しない」):これは慰留ではなく操作です。「ご心配ありがとうございます。自分で決めたことなので」で切る。
カウンターオファー(昇給提示)で揺れるケースは、辞退防止の記事で書いた予防接種:承諾時に「ほぼ確実に引き止めが来ます」と予告し、返しまで練習しておく:が最も効きます。
「後任が決まるまで辞めさせない」「損害賠償だ」といった強い引き止めに、候補者が屈しないための基礎知識を渡します。期間の定めのない雇用では、法律上、退職の申し入れから2週間で雇用は終了できること(民法の原則)。退職を理由とした賠償請求が認められるのは極めて例外的であること。有給の取得は労働者の権利であること。
ただしCAの役割は知識の提供と精神的な伴走までで、法的紛争の代理はできません。悪質なケースでは労働基準監督署や弁護士への相談を案内する。介入のラインを守ることが、候補者と自分の両方を守ります。
強引な退職は、前職との関係を壊し、狭い業界では評判として残ります。引き継ぎ資料の質、後任への誠実さ、最終日の挨拶:円満退職の作法を指導することは、候補者の長期のキャリア資産を守ることです。
そしてCAにとっても、丁寧な退職支援は入社後の定着(30日・90日フォロー)への最高の助走になります。決定の瞬間ではなく、退職完了と入社初日までを支援の範囲とする。この定義が、承諾後の事故率を数字として変えます。
退職交渉支援は、報告型の切り出し台本、引き止め3類型への返しスクリプト、退職の自由に関する基礎知識、円満退職の作法という装備を事前に渡す仕事。承諾時の予防接種から退職完了までを支援範囲と定義したCAは、最後の谷で決定を失わない。
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