アーサー・D・リトル(ADL)は、技術とイノベーションを軸にした経営コンサルティングで知られるファームです。「世界最初のコンサルティング会社」と呼ばれ、日本にも拠点を持ちます。
化学の実験室から始まった会社が、なぜ経営の相談相手になったのか。そして一度破綻したファームが、どう再出発したのか。マッキンゼーより40年早い、コンサルという職業の原点を追います。
アーサー・デホン・リトルは1863年、ボストンに生まれました。MITで化学を学びましたが、経済的な事情で卒業せずに学校を離れ、製紙工場で化学者として働きます。そこで知り合ったのが、同僚のロジャー・B・グリフィンでした。
1886年、2人はボストンで「Griffin & Little, Chemical Engineers」を始めます。仕事は化学分析や試験、そして製紙についての助言でした。当時、化学者は経済の世界であまり評価されていませんでしたが、2人は科学の知見を産業の改善に役立てる仕事に市場があると信じていました。
事業は、決して豊かではありませんでした。仕事の多くは定型の分析で、いくつかの製紙会社の顧客が会社を支えていました。それでも評判は少しずつ高まり、2人は製紙の化学をまとめた本の執筆を進めます。
1893年、グリフィンが実験室の事故で亡くなります。本はまだ完成していませんでした。リトルは一人で事業を続け、1894年に刊行された『The Chemistry of Paper-making』は、長く製紙の分野の標準的な参考書になりました。
リトルたちが手がけたのは、「工程の改善と製品の完成のための調査」でした。企業から依頼を受け、契約にもとづいて専門家が課題を調べ、答えを出す。今では当たり前のこの形を、ADLは早い時期に仕事として確立しました。
1907年には「他人の困りごとが、私たちの仕事(Other people's troubles are our business)」という標語が生まれ、1909年に Arthur D. Little, Inc. として法人化されます。ゼネラル・モーターズの最初の研究所の立ち上げを手伝うなど、技術を産業の成長に結びつける仕事で名を上げていきました。
その後も、事業戦略、オペレーションズ・リサーチ、航空会社の予約システムなど、多くの分野の発展に関わったとされます。戦略論で知られる「ADLマトリクス」も、このファームから生まれました。
1970年代から80年代にかけて、ADLは難しい時期を迎えます。技術に強いコンサルティング会社は、もはやADLだけではありませんでした。マッキンゼーやBCGなどが戦略コンサルティングで存在感を増し、1990年代には業務改革(リエンジニアリング)の需要が高まります。
ADLは、需要が伸びる経営コンサルティングの領域への転換で後れを取ったとされます。技術の知見という強みが、かえって変化への対応を遅らせました。1990年代にはアジアへの展開で成長を取り戻そうとしましたが、2002年に経営破綻に至ります。
破綻後、ADLのコンサルティング部門はフランスのエンジニアリング会社アルトランの傘下に入りました。そして2011年、経営陣が株式を買い戻して独立します。現在は、パートナーが所有する独立したファームとして、ブリュッセルを本社に世界各地で活動しています。
今のADLも、技術・イノベーションと経営をつなぐことを強みに掲げています。製造業、エネルギー、通信、自動車など、技術が事業を左右する業界の相談に強いファームです。
一度は時代に取り残された「技術の会社」という特徴が、デジタル化や脱炭素のように技術が経営の中心課題になった時代に、再び意味を持つようになりました。
「ADLは、化学者が作った世界最初のコンサルティング会社です。今も技術と経営をつなぐことを強みにしています。研究やエンジニアリングの経験を、経営の課題に活かしたい人に向いています。」
研究職やエンジニアからコンサルへの転身を考える候補者に、技術の知見がそのまま武器になるファームとして紹介できます。
| ADL | マッキンゼー | BCG | |
|---|---|---|---|
| 創業 | 1886年 | 1926年 | 1963年 |
| 出発点 | 化学分析と製紙の研究 | 会計学の教授による経営の助言 | 後発として「考え方」を売る |
| 強み | 技術×経営 | 経営全般・組織 | 戦略のフレームワーク |
アーサー・D・リトルは1886年、化学者のリトルとグリフィンが化学分析と製紙の研究から始めた、世界最初のコンサルティング会社とされるファームである。技術を産業の成長に結びつける仕事で名を上げたが、経営コンサルへの転換が遅れて2002年に破綻した。2011年に経営陣が買い戻して独立し、技術が経営の中心課題になった時代に「技術×経営」の強みを再び打ち出している。