基本契約書は「法務が確認するもの」と思われがちですが、RAが読めないと、決定後の返金や手数料の争いで必ず損をします。確認すべきは9条項。そのうち手数料の定義・返金規定・直接採用禁止の3つは、RAが交渉で動かせる範囲を知っておくべき条項です。
※本記事は一般的な契約実務の解説であり、個別の契約に対する法的助言ではありません。契約締結の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。
人材紹介の基本契約書は、企業と紹介会社が取引開始時に一度だけ結ぶ契約です。個別の求人ごとに結び直すことは少なく、最初の契約が数年にわたって適用されます。
つまり、契約時の一つの条項が、その後の全決定に効きます。返金期間が3か月か6か月か、理論年収に賞与を含むか含まないか。この差は、年間で数百万円の粗利の差になります。
多くの会社では法務や管理部門が契約を確認しますが、企業と交渉するのはRAです。「この条項は当社では受けられない」「代わりにこの条件なら可能」と言えるかどうかは、RAが条項の意味を理解しているかにかかっています(基本契約の記事もあわせてどうぞ)。
基本契約書で確認すべき条項を9つに整理します。順番は、実務上の重要度です。
| # | 条項 | 確認すべき内容 | 交渉余地 |
|---|---|---|---|
| 1 | 手数料の定義 | 理論年収の範囲(基本給・賞与・手当・みなし残業)、料率、消費税 | あり(料率・範囲) |
| 2 | 支払期日 | 入社日起算か請求書起算か、何日以内か | あり |
| 3 | 返金規定 | 対象期間(1/3/6か月)、返金率、自己都合/会社都合の区別 | あり(段階設定) |
| 4 | 直接採用禁止 | 紹介後に企業が直接採用した場合の手数料、期間(1〜2年) | あり(期間) |
| 5 | 免責 | 入社後の能力・勤務態度について紹介会社は保証しない | 原則あり |
| 6 | 個人情報・秘密保持 | 候補者情報の目的外利用禁止、選考情報の管理 | 法令に沿う |
| 7 | 契約期間・解除 | 自動更新の有無、解除の予告期間 | あり |
| 8 | 反社会的勢力の排除 | 表明保証と解除 | 標準条項 |
| 9 | 管轄裁判所 | 紛争時の裁判所(企業の本店所在地が多い) | 小さい |
手数料は通常「理論年収 × 料率」で定義されます。争点は理論年収の範囲です。
紹介会社側の標準は、基本給+諸手当+賞与(標準支給額)+みなし残業代を含めた「入社後1年間に支払われる見込みの総額」。一方、企業側のひな形では「基本給×12か月」のみと定義されていることがあり、この場合、賞与4か月分の企業なら手数料が25%減ります。
また、入社後に年収が変わった場合(内定時より高い条件で入社した、入社後すぐ昇給した)の扱いも確認が必要です。「内定通知書の条件で確定」とするのが一般的ですが、明記がないと争いになります。
料率は届け出た手数料表の範囲内で、企業ごとに設定できます。標準は30〜35%ですが、採用難易度によって40%以上を提示する交渉は可能です(手数料交渉の記事)。消費税が内税か外税かも明記させます。
返金規定は、紹介した人が早期に退職した場合、手数料の一部を企業に返す取り決めです。RAにとって最も損益に直結する条項です。
一般的な設計は、退職時期に応じた段階的な返金率です。例えば「入社後1か月以内の退職:80%返金 / 3か月以内:50% / 6か月以内:20% / それ以降:返金なし」。紹介会社側は期間を短く・率を低く、企業側は期間を長く・率を高くしたい。ここが交渉の中心です。
確認する点が3つあります。自己都合退職のみか、会社都合(解雇・退職勧奨)も含むか。会社都合まで返金対象にする契約は、紹介会社に一方的に不利です。「退職」の定義は、退職の意思表示日か、退職日か。そして、返金ではなく「補充紹介」で代替できるか。返金の代わりに別の候補者を無償で紹介する選択肢があると、現金流出を避けられます。
企業側のひな形で「1年以内の退職は全額返金」という条項を見ることがあります。これは業界標準から大きく外れており、受けてはいけません。「当社の標準は6か月・段階制です」と提示し、それでも譲れない企業とは、取引の是非を判断することになります(求人の優先順位設計)。
紹介会社が推薦した候補者を、企業がその時は見送り、後で直接採用する。これが起きると、紹介会社の手数料はゼロになります。これを防ぐのが直接採用(直接雇用)に関する条項です。
標準的な内容は、「紹介から1年(または2年)以内に、企業が当該候補者を直接または他の経路で採用した場合、紹介会社に所定の手数料を支払う」。期間は1〜2年が相場で、企業側は短く、紹介会社側は長くしたい。
企業側のひな形にはこの条項自体がないことがあります。ない場合は追加を求めてください。また、グループ会社や関連会社による採用も対象に含めるかを確認してください。
実務では、この条項を発動する場面は多くありませんが、あることが抑止力になります。「紹介した候補者は、ちゃんと手数料が発生する」という前提が企業側にあるかどうかで、選考の進め方が変わります。
企業から「当社のひな形で」と契約書を渡された場合、次の点を最初にチェックします。
理論年収の定義が基本給のみになっていないか。返金期間が6か月を超えていないか、会社都合退職まで返金対象になっていないか。直接採用禁止条項があるか。支払期日が「入社日から60日以内」など長すぎないか。そして、紹介会社が候補者の能力を保証するかのような、免責条項の欠落がないか。この5点です。
このうち最初の3点のどれかに問題があれば、自社のひな形を対案として出すのが実務的です。「御社のひな形は確認しました。当社の標準と異なる点が3点あるので、当社のひな形をベースに調整させていただけますか」。この提案を、RAが自分の言葉でできるかどうかです。
最後に、契約書は法務に任せる部分と、RAが理解すべき部分に分かれます。反社条項・管轄・秘密保持は法務の領域。手数料・返金・直接採用禁止はRAの領域です。この3条項を読めないRAは、企業との交渉で常に不利な立場に立つことになります(採用要件の再定義・他社と比較されたときの戦い方)。
人材紹介の基本契約書は取引開始時に一度結ばれ、その後の全決定に適用される。確認すべき9条項のうち、手数料の定義(理論年収の範囲)・返金規定(期間と率)・直接採用禁止の3つはRAが交渉で動かせる領域であり、企業側のひな形には理論年収を基本給のみとする、返金期間が長い、直接採用禁止条項がないといった不利な条件が潜む。自社のひな形を対案として提示できるかが、RAの交渉力を決める。
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