要件交渉で「厳しすぎます」と言った瞬間、対話は終わります。企業の判断を否定する言葉だからです。有効なのは削る交渉ではなく、再定義の対話。本当に必要な要件は何かを、企業と一緒に考え直す進め方です。
※本記事は編集部が実務の設計をもとに構成したものです。
交渉の前に、要件が膨らむ構造を理解します。企業が意地悪をしているわけではありません。
①現場の理想を積み上げる。採用要件は、配属先の現場が「こういう人が欲しい」を挙げて作られます。各人の理想を足し合わせると、存在しない人物像ができあがります。
②削る責任を誰も取りたくない。「この要件は外しましょう」と言うと、後で問題が起きたときに責任を問われます。足すのは安全、削るのはリスクという力学が働きます。
③市場を知らない。人事も現場も、その要件を満たす人が市場に何人いるかを知りません。知らないから、書けるのです。
この構造が分かると、交渉の方向が決まります。③を埋めること。市場の実態を示すことが、要件を動かす最も確実な方法です。企業を否定するのではなく、企業が持っていない情報を渡すという立場に立ちます。
具体的な進め方を、悪い例と良い例で示します。
悪い例。「この要件では厳しいので、経験年数を3年から1年に下げてもらえませんか」。これは企業の判断を否定し、こちらの都合を通そうとする提案です。企業側は防御的になります。
良い例。「この3か月で、要件を満たす方は市場に◯名程度でした。うち転職を検討中の方が◯名で、全員にお声がけしています。この状況を踏まえて、要件の優先順位をご相談させていただけますか」。事実の提示から始め、判断は企業に委ねる形です。
そのうえで使う質問が3つあります。①「この要件のうち、入社後3か月で習得可能なものはどれですか」。削るのではなく時間軸で分ける問いです。企業側も答えやすい。
②「絶対に譲れない要件を1つだけ挙げるとしたら何ですか」。優先順位が一気に明確になります。③「この要件がある理由を教えてください」。理由を聞くと、実は形式的に書いただけの要件が見つかることがあります。
| 言い方 | 企業の反応 | 結果 |
|---|---|---|
| 「要件が厳しすぎます」 | 判断を否定された、防御的になる | 対話が終わる |
| 「経験年数を下げてください」 | こちらの都合を押し付けられた | 消極的な譲歩か、拒否 |
| 「市場に◯名でした。優先順位をご相談できますか」 | 情報をもらった、一緒に考える | 要件の再定義が始まる |
| 「入社後に習得可能なものはどれですか」 | 考えたことがなかった | 必須と歓迎の切り分けが進む |
要件交渉で最も効果が高い質問を紹介します。
「現在そのポジションで活躍されている方は、入社時にこの要件をすべて満たしていましたか」。
この質問が効くのは、ほぼ確実に「満たしていなかった」という答えが返るからです。活躍している人の多くは、入社後に成長して現在の姿になっています。しかし採用要件は「現在の活躍者の姿」で書かれている。ここに構造的なずれがあります。
この事実に企業自身が気づくと、要件の議論は自然に動きます。「確かに、Aさんも入社時はこの経験はなかったですね」。ここから「では入社時に何を持っていたか」という建設的な対話に入れます。
さらに一歩進めるなら、「活躍している方に共通する、入社時点の特徴は何ですか」と聞きます。これが本当の採用要件です。経験年数や資格ではなく、思考の癖や行動特性が答えとして出てくることが少なくありません。
こうして作り直した要件は、企業にとっても採用の精度が上がるものになります。エージェントが提供しているのは、候補者だけでなく採用設計そのものです(企業との定例設計)。
交渉しても要件が動かないことはあります。その場合の選択肢を3つ持っておきます。
①雇用形態を変える提案。正社員では要件を満たす人が採れない場合、業務委託や契約社員から始めるという設計があります。企業側のリスクが下がるため、要件を緩める判断がしやすくなります。実際に働いてもらってから正社員化するルートは、双方にとって合理的です。
②役割を分割する提案。一人にすべての要件を求めるのではなく、2つのポジションに分ける。「Aの経験を持つ方とBの経験を持つ方、それぞれ採用する方が実現可能です」。予算の問題はありますが、検討の余地はあります。
③募集の一時停止を提案する。最も勇気が要りますが、誠実な提案です。「現在の要件では、市場でお応えできる方が見つかりません。要件を見直していただくか、他のポジションに注力する方が御社にとって効率的です」(求人の優先順位設計)。
重要なのは、要件が動かないからといって、無理な候補者を推薦しないことです。通らないと分かっている推薦は、候補者の時間を奪い、企業からの信頼も損ないます。推薦しないという判断も、プロの仕事です。
採用要件が厳しくなるのは現場の理想が積み上がり、削る責任を誰も取りたくないという構造による。有効なのは「厳しすぎます」という否定ではなく、市場の事実を示して優先順位を一緒に再定義する対話である。最も効くのは「活躍者は入社時に要件を満たしていたか」という質問で、要件が動かない場合は雇用形態の変更や役割分割、募集停止の提案という選択肢を持つ。
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