UTグループは、半導体や自動車などの製造現場で働く人を、正社員として雇って送り出す会社です。連結の従業員は3万5千人を超えます。
製造現場の派遣は、長く「不安定な働き方」の代表とされてきました。この会社は創業のときから、その前提そのものを変えようとしてきました。何を変え、何につまずき、どう立て直したのかを順に追います。
若山陽一氏は、1991年に製造分野の業務請負で最大手だったクリスタルに入り、製造請負のノウハウを身につけました。クリスタルは、のちにテクノプロの源流にもなる会社です。
当時、製造現場の派遣社員は定着率が低く、生産効率も上がりませんでした。景気がよければ雇い、悪くなれば契約を終える。派遣は「雇用の調整弁」と呼ばれ、非正規で働く人々は景気の変動をまともに受けていました。
1995年、若山氏は24歳で独立し、横浜で製造業の構内請負を行うエイムシーアイシー有限会社を設立します。「エイム(AIM)」は「志」を意味し、業界の歪んだ構造を根本から塗り替えるという意思を込めたといいます。翌1996年、社名を日本エイムに改めました。
創業時に決めたのは、全社員を原則として正社員で採用し、社会保険に100%加入させることでした。一つの現場での契約が終わっても、会社が責任を持って次の職場を紹介する。そうすれば、働く人は長く安心して技能を身につけられます。
さらに、派遣する社員に技能教育を行い、技能が上がれば昇給する仕組みも提案しました。定着率の低さという業界の構造的な問題に対して、雇用・教育・昇給をセットで答えたのです。
2000年には、顧客の工場の生産工程の一部を自社の社員で一括して請け負う「工程一括請負」を導入しました。リーダーのいる30名以上のチームで働く形にしたことで、現場で「つながり」を感じながら、経験者から学べるようになりました。
2001年、IT不況の影響で同社は2期連続の赤字に陥ります。このとき社内の有志と「UTの存在意義とは何か」を徹底的に議論したことが、現在のミッション「はたらく力で、イキイキをつくる。」の原型になりました。
翌2002年には、「挑戦があり成長できるか」「チームで学び支え合えるか」という2つの軸で参入する業界を見直し、工程単位の請負に向いた半導体分野に経営資源を集中させます。
2003年、日本エイムは店頭市場(のちのJASDAQ)に上場しました。製造派遣業界で初めての上場です。同時に、現場で働く社員も自社株を買える社員持株会を立ち上げています。「すべての人に公平に機会のある会社」をめざした上場でした。
2007年、同社は持株会社体制に移り、事業の拡大を図ります。その流れのなかで、人材派遣会社の大型買収に踏み出しました。若山氏は、クリスタルを吸収していたグッドウィル・グループの株式を大量に取得し、筆頭株主になったとされています。
その矢先に、2008年のリーマン・ショックが襲いました。製造業の減産で仕事が一気に減り、積極的な買収による規模拡大は一転して会社存続の危機に変わります。若山氏個人も多額の借入の連帯保証を負い、自己破産寸前まで追い込まれたと伝えられています。
同社は「はたらく人のために何ができるか」という本来の目的に立ち返り、非中核の事業を整理して人材事業を軸に立て直しました。借入は数年で返済したとされます。
この危機のなかで生まれた事業もあります。メーカーがリストラを迫られるなか、製造部門の従業員をまるごと同社に転籍させて請け負う「インハウスソリューション」です。メーカーは固定費を変動費に切り替えられ、従業員は雇用を保てる。危機を、新しい事業の形に変えました。
製造現場の仕事は、担当する工程によって身につく技能が変わります。組立だけを続ければ、組立しかできません。同社は2015年以降、技能が積み上がる経路を制度として整えてきました。
| 制度 | 中身 |
|---|---|
| One UT | 生産オペレーターなどから、より高度なエンジニア職へのキャリアチェンジを支援 |
| Next UT | 現場で実績を積んだ社員を、顧客企業の正社員として送り出す |
| 研修施設 | 未経験から短期でエンジニアを育てるセンターや、半導体製造向けの能力開発センターを設立 |
特徴的なのは、社員を顧客企業に送り出すこと(転籍)まで事業にしている点です。同社は企業と働く人の双方を「顧客」と位置づける「ツインカスタマー戦略」を掲げています。入口で終わらせず、その先の出口まで用意することが、この会社の主張です。
| 従来の期間工・派遣 | UTグループがめざす形 | |
|---|---|---|
| 雇用 | 期間限定 | 無期(正社員) |
| 配属 | 需要次第 | 技能の積み上げを考慮 |
| 5年後 | 同じ作業か、別の職場 | 資格と経験が増え、転籍の選択肢もある |
2019年、創業25年目の節目に、同社は東証一部へ市場を変更しました。同じ年、一橋大学大学院が主催し、独自の戦略で高い収益性を実現した企業を表彰する「ポーター賞」を受賞しています。
評価されたのは、創業以来、無期雇用を前提として事業を組み立て、派遣社員の「成長」を追求してきたことでした。働く人の安定を守ることが、コストではなく競争力の源泉になっている、という評価です。
出所:UTグループ 会社概要・沿革。数値は各時点で公表されたもの。
一方で、無期雇用は不況のときに重荷になります。仕事がなくても給与を払う必要があるからです。2008年の教訓を制度にした分、そのリスクも会社が引き受けていることになります。
製造現場の求人は、時給と勤務地で比べられがちです。しかし同じ時給でも、身につく技能によって3年後の選択肢はまったく違います。
| 聞くべきこと | 見えるもの |
|---|---|
| どの工程を担当するか | 身につく技能の種類 |
| 資格取得の支援はあるか | 市場価値が上がる経路 |
| 配属はどう決まるか | 希望が反映される余地 |
| 交代勤務はあるか | 生活への影響 |
| 不況時の扱い | 雇用の安定の実態 |
| 転籍・社員登用の実績 | 5年後の出口 |
「UTグループは、派遣先の現場で実績を積んだ社員を、その会社の正社員として送り出す仕組みまで持っています。今の条件だけでなく、5年後にどこにいたいかから一緒に考えましょう。」
今の条件ではなく、次の一歩がどこにつながるかで選んでもらう。これが現場職を扱うエージェントの役割です。ウィルグループやテクノプロと比べると、同じ「正社員で雇って送る」でも、対象の職種や出口の作り方が違うことが見えてきます。
UTグループは1995年、請負最大手クリスタル出身の若山陽一氏が24歳で創業した製造派遣の会社である。派遣が雇用の調整弁とされた時代に、創業時から正社員雇用と社会保険100%加入を掲げ、変動を会社が引き受ける設計をとった。2度の危機を経て人材事業に集中し、技能の積み上げから転籍までを事業にした仕組みが、2019年のポーター賞で評価された。
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