ウィルグループは、家電量販店の販売員、コールセンター、食品工場、介護施設、建設現場など、幅広い現場に人材を送る会社です。国内だけでなく、オーストラリアとシンガポールでも人材サービスを展開しています。
リクルートやパーソルに比べると後発で、始まりは大阪の小さな請負会社でした。後発の会社がどうやって各領域で上位に入ったのか。そしてなぜ今、自らのビジネスモデルを作り替えようとしているのか。順に追っていきます。
池田良介氏は1968年、兵庫県に生まれました。祖父の代から経営者の家系でしたが、父の事業が失敗し、満足な治療を受けられないまま母を亡くしています。「守りたい人を守れる、強い経営者になりたい」という思いは、この経験から生まれたと語られています。
経営には経理の知識が要ると考え、1992年に会計事務所に入りました。転機は1995年の阪神・淡路大震災です。生きているうちに、やりたいことを思い切りやらなければいけない。そう痛感して、起業を決めます。
1997年、大阪で2つの会社が設立されます。テレマーケティングを手がけるセントメディアと、引越やイベント会場の設営など軽作業の短期請負を手がけるビッグエイドです。池田氏は同年10月、ビッグエイドの立ち上げに加わりました。
当時のビッグエイドは、社長と支店長と池田氏の3人だけの会社でした。工場の製造ラインの請負を始めたものの、資金も設備も実績もなく、失敗の連続だったといいます。
それでも、スタッフと一緒に現場を良くしようと逃げずに向き合い続けた結果、ビッグエイドは3年で年商5億円規模になりました。この時期の経験から生まれた言葉が、今も会社のバリューとして掲げられている「Believe in Your Possibility(自らと仲間の可能性を信じよ)」です。
2000年、テレマーケティングと業務請負の相乗効果を狙い、セントメディアがビッグエイドを吸収合併します。合併後の会社の社長に選ばれたのが、32歳の池田氏でした。
池田氏の夢は「自分で創業した会社を経営すること」で、雇われ社長には気が進まなかったといいます。一度は断り、「上場するまで」という約束で引き受けました。ところが就任してみると、セントメディアはオフィスの家賃すら滞納している赤字企業でした。
あらゆる手を使って経営を立て直し、約1年で健全化にこぎつけます。そこで浮かび上がったのが、何のための会社なのかという理念がないという課題でした。池田氏が講演で堀場製作所の堀場雅夫氏に相談すると、「目の前の仕事に没頭し、経営を通して見えてきた譲れないことを言葉にすればいい」と返されたといいます。
2003年頃、「個と組織をポジティブに」「チェンジエージェント」といった言葉が生まれ、2006年に現在のミッション・ビジョン・バリューとして定められました。堀場製作所の創業ストーリーとあわせて読むと、言葉の背景が見えてきます。
後発ながら伸びた背景には、2004年の労働者派遣法改正で製造業への派遣が解禁されたことなど、2000年代の制度変更もありました。市場が立ち上がる時期に、2〜5年の周期で新しい領域へ先手を打ってきたことが、成長につながっています。
同社の競争力として挙げられるのが「ハイブリッド派遣」です。ウィルグループの社員(フィールドサポーター)と派遣スタッフがチームになり、派遣先で一緒に働く形です。
きっかけは、2008年のリーマン・ショックでした。製造業からの発注が激減して業績が大きく悪化し、本社の正社員まで現場に出ざるを得なくなったのです。正社員と派遣スタッフが同じ現場で助け合ったことで、両者の距離が縮まり、このスタイルが定着しました。
| 一般的な派遣 | ハイブリッド派遣 | |
|---|---|---|
| スタッフの教育 | 派遣先の企業が行う | 同社の社員が現場で行う |
| 指揮命令 | 派遣先の担当者から | 同じ会社の仲間として円滑に |
| スタッフのフォロー | 営業担当が時々訪問 | 同じ現場にいる社員が日常的に |
| 効果 | — | 定着率と現場の生産性が上がる |
販売、コールセンター、工場は、いずれも離職率の高い現場です。同じ会社の社員が隣にいることで、スタッフの心身のフォローができ、定着率が高まる。危機のなかで偶然生まれた形が、他社にない強みになりました。
国内の事業は、次のような領域に分かれています。どれか一つに依存せず、各領域が売上の1割前後ずつを占める構成です。
| 領域 | 主な現場 | 特徴 |
|---|---|---|
| セールス | 家電量販店のスマホ売り場など | 通信会社の販売施策に左右される |
| コールセンター | 通信・金融・BPO | 同社調べでオペレーター派遣は業界1位 |
| ファクトリー | 食品などの工場 | 景気に左右されにくい食品工場が中心 |
| 介護 | 介護施設 | 資格取得支援とセットで提供 |
| 建設技術者 | ゼネコン・サブコン | 施工管理技士の正社員派遣。収益性が高い |
領域を分散させると、特定の業界の不況に左右されにくくなります。一方で、それぞれに専門の知識が要るため、組織は複雑になります。プレックスやエス・エム・エスのように一つの領域を深く掘る会社とは、何をリスクと見るかが違います。
比較的早い段階から海外に出たのも、同社の特徴です。2011年のシンガポールでの法人設立を皮切りに、買収で事業を広げ、オーストラリアでは6社を買収しています。
海外事業は2024年3月期に売上の約4割を占めるまでになりました。特徴は、派遣先に政府・行政の比率が高いことです。現地の会社を買収して参入したため、外国企業でありながら行政の案件を取れています。
買収の進め方にも型があります。最初に過半数を取得し、その後1〜3年かけて残りの株式を買い増す。創業者から事業を引き継ぎながら、グループに溶け込ませていく方法です。人口が減る国内だけでは成長に限界がある、という判断が背景にあります。
ここ数年、同社は国内事業の伸び悩みに直面しています。コロナ禍以降、主力のセールス領域やコールセンター領域が苦戦しました。人材派遣は一人あたりの利ざやがほぼ一定で、規模を大きくしても利益率が上がりにくいという構造的な限界もあります。
そこで掲げたのが、「数」から「質」への転換です。有期雇用の派遣スタッフを中心とした事業から、正社員として雇った人材を送る正社員派遣や人材紹介の比率を高めていく方針です。
その中心が建設技術者の領域です。施工管理技士を正社員として雇い、ゼネコンなどに派遣します。新卒・未経験者を採用して育て、資格を取らせながら単価を上げていく。売上総利益率は20%台後半と、他の領域より高い水準にあります。
出所:同社の開示資料をもとにした証券アナリストのレポート(2024年7月)。数値は各時点で公表されたもの。
ただし、建設技術者の領域ではオープンアップグループなどが先行しており、同社はまだ後発の立場です。採用した技術者の定着率の改善が課題として挙げられています。
ウィルグループは、派遣スタッフとして働く人にも、本社や子会社の社員として働く人にも関わる会社です。候補者の立場によって、伝えるポイントが変わります。
「この会社は、社員が派遣スタッフと同じ現場に入って一緒に働く『ハイブリッド派遣』を強みにしています。マッチングして終わりではなく、現場を一緒に良くする仕事がしたい人に向いています。」
人材業界で働きたい候補者には、マッチングの先まで関わる働き方として紹介できます。生え抜きの社員が支店長や子会社の社長を経てグループの社長になった例もあり、現場から経営に近づく道筋を示す材料になります。
建設技術者の領域では、新卒や未経験者を正社員として採用し、資格取得を支援しながら現場に送り出しています。正社員として給与を得ながら、国家資格と実務経験を積める入口として説明できます。
ウィルグループは1997年、大阪で3人から始まった請負会社を源流に、池田良介氏が32歳で引き受けた赤字会社を立て直して成長した人材サービス企業である。リーマン・ショックの危機から生まれたハイブリッド派遣を強みに各領域で上位に入り、海外にも広がった。いまは有期雇用の派遣から、建設技術者などの正社員派遣へと「数から質」への転換を進めている。
記事の内容を前提にして、あなたの状況に合わせた答えをAIに出させます。質問を入れて「ChatGPTで相談」または「Claudeで相談」を押すと、記事の要点と質問がセットになった状態で開きます。