レバレジーズは、ITエンジニア向けの「レバテック」、看護師向けの「レバウェル看護」、若年層向けの「ハタラクティブ」などを運営する人材サービスの会社です。20年にわたって黒字を続け、上場も外部からの資金調達もしないまま、国内有数の規模に育ちました。
この会社は、よく「営業が強い会社」と語られます。しかし来歴を追うと、本当の強さは別の場所にあることが見えてきます。人材紹介を一人の職人芸ではなく、分業と集客の「設計」で回すという考え方です。創業者の生い立ちから、その設計が生まれた理由、そして小さなエージェントがそこから何を学べるかまでを、順に掘り下げます。
岩槻知秀氏は1980年、大阪府和泉市に生まれました。家族がマスコミ関係の仕事をしていたこともあり、漠然と自分もその道に進むのだろうと考えていた少年でした。転機は、早稲田大学社会科学部に入って上京した19歳のころ。ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』をはじめ、成功した起業家の本を次々に読み、「一度きりの人生だから、起業家として事業を創り、社会に大きなインパクトを与えたい」と考えるようになります。
ところが、起業に向けた勉強を始めた矢先、窮地に立たされます。上京後にバイクや学習教材を借金で買っていたところに、独立していた父の事業が失敗し、仕送りが止まったのです。借金を抱えたまま、生活費も学費も自分で稼がなければならなくなりました。
日雇いのアルバイトを始めたものの、学生が選べる時給の高い仕事はホストかプログラマーしかなかったといいます。岩槻氏は、将来のキャリアにつながるほうを選び、プログラマーになると決めました。
プログラミングの知識も経験もゼロ。借金を返すために、1分1秒を惜しむように独学したといいます。大学1年からIT企業でエンジニアとして働き、インターンでは独学では得られない経験を積んで、プログラマーとしての基礎を身につけました。
その後、社員2名のシステム開発のスタートアップに、創業メンバーとして誘われます。しかしそこは、保険も契約書もなく、罵声が飛び交い、人が入ってはすぐ辞めていく会社でした。自社さえ儲かれば、関わる人にどれだけ迷惑をかけてもいい。そういう会社に関わった人が皆不幸になっていくのを、岩槻氏は間近で見ます。
それまで「会社は売上が上がればいい」程度に考えていた岩槻氏が、初めて経営理念の意味を考えたのがこの時期でした。のちの企業理念「顧客の創造を通じて、関係者全員の幸福を追求し、各個人の成長を促す」は、この反面教師から生まれています。
起業を決めていた岩槻氏ですが、就職も真剣に考えました。最初の事業の候補は、当時まだなかったインターネットの生命保険。ITはわかっても金融がわからない。まず金融の会社に入って学び、その後に起業する計画でした。
実際に金融業界から内定を得ます。しかし、借金の経緯を話すと面接で良い顔をされず、内定後には、顧客のためにならない売買や過剰な保険の販売といった業界の実態を知り、疑問を持つようになりました。ちょうど個人で始めていた事業が軌道に乗っていたこともあり、就職をやめます。2005年4月、大学卒業と同時にレバレジーズを設立しました。
お金と仕事の問題を解く領域として、岩槻氏が思い浮かべたのは金融と人材でした。金融に疑問を持った以上、残るのは人材です。
もう一つの基準は、自分が価値を出せる分野から始めることでした。当時の岩槻氏の強みは、エンジニアとしての知見と、インターンで身につけた営業力。エンジニアだったからこそ、どんな案件をやりたいか、いま技術のトレンドは何かが、使う人と同じ目線でわかる。フリーランスになった知り合いのエンジニアの収入が軒並み上がっていくのを見て、手応えを得たといいます。こうして生まれたのがレバテックです。
学生時代に自分が使った派遣会社の記憶も、背中を押しました。働き手のキャリアに良い影響がある高時給の仕事を紹介してくれた会社があった。顧客も会社も働く人も幸せになる人材の事業は、ありうる。その実感が、人材で起業する決め手の一つになりました。
出所:同社の公式サイト・会社紹介資料。2025年度は会計基準変更前の数値。創業時の約1億円から20年で約1,760倍。
人材紹介の組織には、大きく2つの型があります。1人が企業と求職者の両方を担当する両面型と、企業担当(RA)と求職者担当(CA)を分ける分業型です。レバレジーズは、主力の事業で分業型を軸にしながら、事業や部門によっては両面型の体制もとっています。一つの型に決め打ちせず、事業に合わせて型を選ぶのが同社のやり方です。
同社の採用情報を見ると、レバテック、若年層向けのハタラクティブ、新卒向けのキャリアチケットでは、紹介の現場がRA(リクルーティングアドバイザー)、CA(キャリアアドバイザー)、そしてインサイドセールスに分かれています。RAは企業の採用の相談に乗り、求人を作り、候補者を提案する。CAはエンジニアと面談し、キャリアを一緒に考え、合う企業を紹介する。両者は連携しながら、それぞれの専門を深めます。
| 両面型 | 分業型 | |
|---|---|---|
| 担当 | 1人が企業と求職者の両方 | RA・CA・インサイドセールスに分ける |
| 強み | 企業の温度感をそのまま候補者に伝えられる | 役割ごとに専門性と生産性を高められる |
| レバレジーズでは | 一部の事業・部門で採用 | レバテックなど主力の事業で採用 |
| 弱み | 1人が抱えられる量に限界がある | 伝言ゲームになりやすく、連携の設計が要る |
| 向く規模 | 少人数・特化型のブティック | 大量の求職者と求人を扱う大規模組織 |
主力の事業で分業型をとる理由は、規模と再現性です。両面型は、1人の力量に成果が左右されやすく、1人が抱えられる企業と求職者の数にも限界があります。分業すれば、役割ごとに育成の型を作り、新卒の若手でも一つの役割から早く戦力になれる。事業を次々に立ち上げる同社にとって、人を育てる速さは成長の速さそのものでした。
一方で、扱う求職者や企業の数が限られる領域、企業と求職者の距離が近いほうが価値を出せる領域では、1人が両方を見る両面型のほうが合うこともあります。どちらが優れているかではなく、その事業の市場の大きさと、何で価値を出すかによって型を選ぶ。約60の事業を持つ会社だからこそできる使い分けです。
分業型の組織が回るには、前提があります。CAが面談する求職者が、途切れずに集まり続けることです。レバレジーズの本当の強みは、ここにあります。
同社は、事業に必要な職種をすべて社内にそろえる「インハウス型」の組織を掲げてきました。エンジニア、デザイナー、そしてマーケター。自社でサイトを作り、検索で見つけてもらうための記事を書き、広告を運用する。外注に頼らず、求職者を集める仕組みそのものを自社で持っています。看護師向けのサイトでは、入社1年目の社員が検索対策(SEO)の責任者に抜擢された例も紹介されています。
創業者自身が、エンジニアからマーケターへと職能を広げた人でした。人材紹介を「営業の仕事」ではなく、「集客の設計と、分業による運用」として組み立てたこと。これが、他の多くの紹介会社との決定的な違いです。
| 段階 | 担う役割 | 何で勝つか |
|---|---|---|
| 見つけてもらう | マーケティング・メディア | 検索・記事・広告の設計 |
| つなぐ | インサイドセールス | 初回接点の速さと量 |
| 寄り添う | CA | 面談とキャリアの提案 |
| 決める | RA | 企業の採用課題の理解と提案 |
「追いかける」より「見つけてもらう」という考え方は、HubSpotが名づけたインバウンドマーケティングと重なります。人材紹介の集客をどう設計するかは、10月21日開催のセミナー「スカウトを打ち続けるから卒業する。『選ばれるエージェント』の集客設計」でも扱うテーマです。
レバレジーズの事業の選び方には、一貫した基準があります。構造的に人手が足りず、しかも求職者が良い情報にたどり着きにくい市場を選ぶことです。ITエンジニア、看護師、介護士、若年層の就職、障がいのある人の就労。いずれも、この2つの条件がそろっています。
そして、一つの領域で作った「集客の設計×分業の運用」という型を、次の領域にそのまま持ち込みます。ITで磨いた仕組みを看護に、看護で磨いた仕組みを介護に。型があるから、年に10以上もの事業を立ち上げられる。同社はこれを「ポートフォリオ経営」と呼び、ベンチャー企業の集合体のような組織をめざしています。
| 領域 | 主なサービス | 共通する構造 |
|---|---|---|
| IT | レバテック(フリーランス・転職) | エンジニア不足、案件情報の不透明さ |
| 医療・介護 | レバウェル看護・介護 | 慢性的な人手不足、職場情報の非対称 |
| 若年層 | ハタラクティブ、キャリアチケット | 経験の浅い人が良い求人に出会いにくい |
| その他 | 障がい者の就労支援、SaaS、M&A仲介、海外 | 同じ型を新しい市場へ |
40を超える事業に、どうやって入る市場を決めているのか。岩槻氏の答えは意外なほど単純です。一番大きな軸は「感情への貢献」。平たく言えば、お客様が喜んでくれるかどうかです。人の人生の質は感情に大きく左右されるから、少しでも多くの人が今より良い感情で暮らせる状態をめざす、と語っています。
そのうえで、自社がどれだけ貢献できるかを3C分析(顧客・競合・自社)で見極めます。すでに競合が完璧なサービスを提供している市場には入る余地がない。まだ改善の余地があるなら入る。つまり、「困っている人がいる」×「既存のサービスが不十分」×「自社が価値を出せる」の3つがそろう場所を探しているのです。
| 問い | 見ているもの | 創業時のレバテックでは |
|---|---|---|
| 顧客は困っているか | 感情への貢献の大きさ | エンジニアが良い案件に出会えない |
| 既存の解決策は十分か | 競合の完成度 | 業界に詳しい紹介会社が少なかった |
| 自社は価値を出せるか | 自社の強み | 創業者自身がエンジニアで、使う人の目線がわかった |
創業のときに岩槻氏が掲げた「自分が価値を出せる分野から始める」という基準は、20年たった今も、事業を選ぶ物差しとしてそのまま生きています。
同社を語るうえで欠かせないのが、上場せず、外部からの資金調達もしない「独立資本経営」です。岩槻氏は、多くの企業が上場によって短期の利益を追わざるを得なくなるなかで、あえて上場しないことで長期の視点での大胆な事業投資と、人への投資を可能にしていると説明しています。
出所:同社の公表・採用資料。
新規事業への投資は年150億円以上。黒字の事業が生んだお金を、まだ赤字の新しい事業に回す。株主に四半期ごとの説明を求められないから、数年かかる投資にも踏み込める。分業の型と集客の仕組みを次々に新しい市場へ持ち込めるのは、この資本の形があってこそです。
一方で、非上場の会社は開示の義務が限られ、外から経営の中身を確かめにくいという面もあります。候補者に紹介するときは、公表されている数字の範囲を正確に伝えることが大切です。創業者・岩槻知秀氏の人物像もあわせて読んでください。
レバレジーズの社員の平均年齢は約26歳。2023年秋には、当時の社員数の約3分の1にあたる約700名の新卒内定者を迎えました。事業が増えるほどポストが増え、若手が次々に責任ある役割に就く。リーダーへの平均昇格年数は約2.2年とされます。
大量の若手を短期間で戦力にできるのは、分業によって役割が細かく定義されているからです。まずCAやRA、インサイドセールスの一つの役割を深め、次に別の役割や別の事業、マーケティングや企画へと移る。職種を変えられる仕組みもあり、事業部をまたいだ交換留学のような制度も紹介されています。
正社員は4,264名(2026年4月)。国内27拠点に加え、アメリカやメキシコにも拠点を持ちます。若さと分業と事業の数が、互いを支え合う形になっています。
「若手が活躍できる」という言葉は、多くの会社が使います。レバレジーズが違うのは、それを支える具体的な仕組みがあることです。
岩槻氏は、人の育て方について「本人ができなさそうな仕事を与えてみる」と語っています。責任者に求められるのは「品質の担保」と「意思決定」。前者は現場の経験を積めば身につくが、後者は責任ある立場で実際に決め、その結果から学ぶしかない。だから早く抜擢する、という考え方です。新卒1年目で中途社員をマネジメントする、入社3年で執行役員になる、といった例が採用サイトで紹介されています。
社内公募で選ばれた社員が5人1組のチームを組み、約1か月半かけて市場調査から事業計画までを練り上げ、2泊3日の合宿で代表と執行役員に提案します。採択されれば実際に事業として立ち上げられます。オンライン診療の事業も、ここから生まれたと紹介されています。
社内の空きポジションが常に公開され、誰でも応募できます。異動の希望を知っているのは本人と社長室だけで、今の上司にも決まるまで伝わりません。2024年度は90件の募集に292件の応募があり、61件の異動が実現しました。職種を変えることもできます。
出所:同社の採用資料・公式メディアにもとづく公開情報。
レバレジーズには、全社員が持ち歩く7つのクレド(行動指針)があります。
| クレド | 中身 | |
|---|---|---|
| 01 | 成長 | 仲間と共に可能領域を増やす |
| 02 | 貢献の拡大 | 社会の発展に貢献する |
| 03 | 思いやり | 相手の気持ちを深く理解し、相手の立場に立った行動をする |
| 04 | エッジ | 組織のため相手のために必要な、厳しい行動をする |
| 05 | プロフェッショナル | 顧客満足を追求し利益を出す |
| 06 | 実行責任 | 当事者意識を持ち、最後までやり遂げる |
| 07 | ポジティブ | 前向きに考えて行動する |
目を引くのは、「思いやり」と「エッジ」が隣り合っていることです。相手の立場に立つ優しさと、相手のために耳の痛いことも言い切る厳しさ。どちらか一方ではなく、両方をセットで求めています。公式サイトには「現状維持は衰退」という言葉もあり、知っていることやできることを繰り返すだけでは成長しない、という考え方が文化の土台にあります。
創業期の過酷な会社で「関わる人が皆不幸になる」のを見た経験は、「関係者全員の幸福」という理念になり、それを日々の行動に落とし込んだのがこのクレドです。
主力の事業で使われている分業型の設計は、万能ではありません。候補者や企業に紹介するとき、エージェントとして両面を理解しておく必要があります。
| 強さ | 注意したい点 | |
|---|---|---|
| 候補者から見て | 面談がすぐ組まれ、求人の数も多い | 企業の温度感がCAを経由して伝わる |
| 企業から見て | 候補者の母数が大きく、提案が速い | 担当が役割ごとに分かれ、窓口が複数になる |
| 働く人から見て | 役割が明確で早く成長できる | 一つの案件を最初から最後まで持つ経験は積みにくい |
| 会社として | 型を横展開して規模を出せる | 伝言ゲームを防ぐ連携の仕組みが欠かせない |
分業型の弱点は、情報が人から人へ渡るたびに薄まることです。だからこそ、同社のような大きな組織は、連携の型や社内ツールに投資します。逆に言えば、この「情報の薄まり」が起きにくいことこそ、両面型の小さなエージェントが持つ強みでもあります。
創業から20年近くたって、岩槻氏は自分の変化を「より利他的な考えになってきている」と語っています。来月の家賃を払えるかという時期は、利己の割合のほうが高かった。いろいろな欲求が満たされるにつれて、願いが自分のためから、誰かのためへと質的に変わったというのです。仕事は善意でするもので、誰かに貢献した度合いに応じて対価を受け取る。そのうえで、互いに得をする関係を追求することが大切だ、と話しています。
視線は、会社の外にも向いています。岩槻氏は2024年に経済団体「新経済連盟」の幹事に就き、生産年齢人口が減る日本で、ITとDXで生産性を上げることを自らの使命だと語っています。日本の人手不足の中で磨いた、人が楽しく生産性高く働ける仕組みを海外に広げ、「新しいMade in Japan」として外貨を稼ぐ。さらにその先には、エネルギーや食糧、宇宙といった世界の課題にも取り組みたいとしています。会社のタグラインは「次代を、創る。」です。
メキシコ、インド、ベトナム、アメリカへと広げてきた海外の拠点は、その構想の足がかりです。借金を返すために覚えたプログラミングから始まった物語は、いま日本発の仕組みを世界に持ち出す段階に入っています。
レバレジーズは、多くのエージェントにとって競合でもあります。規模も資本も違う相手から、何を学び、どこで戦うべきか。
最大の学びは、分業の形ではなく集客を設計するという発想です。スカウトの数を増やし続けるのではなく、自分の専門領域で役に立つ情報を発信し、求職者に見つけてもらう。大手の規模がなくても、狭い領域でなら、発信の質で勝てる可能性があります。
大手の分業型が苦手とするのは、企業の温度感をそのまま候補者に伝えることです。社長の考え、チームの空気、選考で本当に見ているもの。1人が両方を見ているからこそ語れる一次情報は、両面型の最大の武器です。
「大手のエージェントは求人の数が多く、面談もすぐ組んでくれます。私は担当企業の社長や現場と直接話しているので、求人票に書かれていない中身までお伝えできます。数と深さ、両方を使い分けてください。」
レバレジーズは、借金返済のために独学でプログラマーになった岩槻知秀氏が2005年に創業した人材サービスの会社である。人材紹介は、主力の事業ではRA・CA・インサイドセールスを分けた分業型を軸にしつつ、事業によっては両面型も使い分け、自社のマーケティングで求職者に見つけてもらう集客の設計と組み合わせて回している。その型を「人手不足×情報の非対称」の市場に横展開し、上場も外部調達もしない独立資本経営で、2025年度に売上1,762億円、約60の事業へと広がった。