2007年、「クラウド名刺管理」という市場は存在しませんでした。だから創業者は、スキャナーとタッチパネルを担いで1日8件の営業に回りました。市場がないなら作る:その18年の積み重ねが、いまAIを使いこなす土台になっています。
※本記事は当該企業の公式サイト(沿革・創業ストーリー)、有価証券報告書、Wikipedia日本語版・英語版、経営者インタビュー記事等の公開情報をもとに編集部が構成しました(2026年9月時点)。年次は資料により差異がある項目があり、複数の出典で確認できた年を採用しています。
寺田親弘は1976年、東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を卒業して1999年に三井物産へ入社し、情報産業部門に配属されます。米国シリコンバレーでベンチャー企業の日本向け事業展開を支援し、帰国後は社内ベンチャーとしてデータベースソフトウェアの輸入販売部門を立ち上げました。
新しい事業が生まれる場を、支える側から何度も見た経歴です。そして2007年6月11日、東京都新宿区市谷田町に三三株式会社を登記します。設立目的は「名刺管理サービスの提供」ただ一つでした。
社名「Sansan」の由来は中国の三峡ダム。膨大な水を受け止め、力に変える存在にちなんでいます。
2007年9月、「Link Knowledge」(現・営業DXサービス「Sansan」)の提供を開始します。名刺をスキャナーで読み取り、氏名・会社・役職をクラウドに保存して社内で共有する仕組みです。
しかし当時、クラウド名刺管理という市場そのものが存在しませんでした。誰も欲しいと思っていないものを説明して回るしかない。創業当初はスキャナーとタッチパネルを携帯しながら1日8件の営業に回る日々が続いたと伝えられます。
ここで重要な判断がありました。読み取りを機械任せにせず、人間のオペレーターの入力を組み合わせて、データ化の精度を99.9%に保ったことです。効率だけを考えれば非合理な選択ですが、この手作業を残した判断が、のちに競合との差になります。
Link Knowledgeの提供を開始
名刺をスキャンしてクラウドで共有する法人向けサービスで、現在の「Sansan」の原型です。
個人向けアプリ「Eight」を開始
無料の名刺アプリとして、法人向けとは別の入口を作りました。
約5億円の資金調達を実施
以降、累計調達額は100億円を超える規模になりました。
東証マザーズに上場
東証一部へ市場変更
法人向け名刺管理市場で圧倒的なシェアを持つ企業に成長しました。
Bill Oneなど新領域へ拡大
請求書受領サービスなど「働き方を変えるDX」へ事業を広げています。
Sansanの主な沿革
2012年2月には個人向けの無料アプリ「Eight」を追加します。法人向けと個人向け、二つの入口を持つ構造ができました。「それ、早く言ってよぅ」というテレビCMで、名刺管理という概念は一般にも広がっていきます。
そして2025年、寺田はこう語っています。アナログ情報のデータ化を18年続けたことでノウハウが溜まり、それがあるからこそAIを適切に使えている。と。効率を犠牲にして人の手を残した創業期の判断が、生成AI時代の競争力に転化したのです。
この名刺データの蓄積は、採用の領域にも広がりました。名刺アプリEightのユーザーに企業がスカウトを送れるEight Career Designは、転職市場に出ていない潜在層に届く唯一級のチャネルになっています(Eight Career Designの分析記事)。
Founder's Words
「アナログ情報のデータ化を18年続けたから、AIを適切に使える」
2025年の説明会で語られた言葉です。創業期に効率を犠牲にして人の手を残した判断が、生成AI時代の競争力に転化したことを示しています。
Sansanの創業は、「市場がない」は参入しない理由にならないことを示しています。むしろ市場がないからこそ、作った側が標準になる。1日8件の訪問という地道さと、精度99.9%へのこだわりが、後の圧倒的シェアを支えました。
候補者に同社を語るとき、名刺という古い商習慣をデータに変え続けた18年が、いまAI活用の差になっているという文脈は強力です。地道な積み重ねが技術的優位に転化した稀有な事例として説明できます。
Sansanは2007年、三井物産出身の寺田親弘が「名刺管理サービスの提供」ただ一つを目的に設立した。クラウド名刺管理という市場が存在しない時代に、スキャナーを担いで1日8件を回り、機械任せにせず人の入力で精度99.9%を保った。その18年の蓄積が、AI時代の競争力の土台になっている。
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