正社員の転職率は7.2%(2024年度)。過去最高水準が続いています。14人に1人が、1年のあいだに会社を変えている計算です。かつて転職は例外でした。いまは選択肢の一つです。この変化が、エージェントの仕事の前提を変えています。
※出典:厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」、doda・パソナ等の公表データと、それに基づく編集部の整理です(2026年9月時点)。
厚生労働省の雇用動向調査によれば、正社員の転職率は7.2%(2024年度)。過去最高水準が続いています。
この数字を実感に置き換えると、14人の職場で、1年に1人が辞めて別の会社に移るということです。3年で見れば、3人に1人近くが入れ替わる計算になります。
注意すべきは、これは「転職した人」の割合であり、「転職を考えた人」ではないこと。総務省の労働力調査では、転職等希望者は1,023万人。就業者の約7人に1人が「転職したい」と考えています。実際に動く人の3倍が、動かずにいる(市場が伸びる構造)。
つまり市場には、「もう動いた人」7.2%と、「動きたいが動いていない人」がその3倍いる。エージェントが向き合っているのは、後者です。
転職率の上昇には、3つの構造的な要因があります。
①終身雇用の前提が崩れた。2019年に経団連会長とトヨタ社長が相次いで「終身雇用は限界」と公言しました。維持する側の当事者が言った時点で、暗黙の契約は終わっています(キャリアの原理)。
②転職のインフラが整った。転職サイト、スカウト、エージェント、口コミサイト、SNS。この10年で情報と手段が民主化されました。かつて転職は「伝手がある人」のものでしたが、いまは誰でも始められます。
③心理的なハードルが下がった。ある調査では、退職の心理的ハードルが「下がっている」と感じる理由の1位が「一般的な選択肢となっている」(79.3%)。周囲に転職経験者がいることが、最大の後押しになっています。
ただし同じ調査で、「入社後3年は在籍した方がいい」と思う人が59.2%。動くことは簡単になったが、選び方の規範は残っている。この緊張の中に、いまの候補者はいます。
各種調査で一貫しているのが、転職理由の1位が「給与の低さ」だということです。次いで「仕事内容への不満」「人間関係」が続きます。
ここに、エージェントが誤解しやすい点があります。「キャリアアップしたい」と語る候補者の多くは、実際には現状への不満から動いている。表明された理由と、本当の理由が違うのは普通のことです。
だから面談では、「今回、転職を考え始めたきっかけは、具体的にいつ・何でしたか」と聞く必要があります。抽象的な志望ではなく、具体的な出来事を聞く。ここに本音があります(候補者と企業を同じ解像度で理解する)。
同時に、年収だけで転職先を選ぶと失敗することも伝える必要があります。給与への不満で動いた人が、年収だけで決めて、また同じ不満を抱えて戻ってくる。この循環を止めるのが、エージェントの仕事です(年収交渉の記事)。
| 転職理由 | 順位の傾向 | 面談で確認すべきこと |
|---|---|---|
| 給与が低い | 1位 | いくら足りないのか。何と比べて低いと感じたのか |
| 仕事内容への不満 | 上位 | 何が不満か。やりたいことか、やりたくないことか |
| 人間関係 | 上位 | 特定の人か、組織の構造か。転職で解決するか |
| 会社の将来性 | 中位 | 事業の実態を理解しているか。憶測ではないか |
| キャリアアップ | 表明されやすい | 具体的に何を得たいのか。本当の動機は他にないか |
転職率が上がったことで、エージェントの価値は変わりました。
かつての価値は「動かすこと」でした。転職が例外だった時代、動くという選択肢を示すこと自体に価値があった。
いまの価値は「選ばせること」です。誰もが動ける時代に、どこへ向かうべきかを一緒に決める。情報も手段も民主化された以上、残る問いは「どこへ行くか」だけです。
そして、動くことが簡単になったからこそ、失敗も増えています。年収だけで決めた、雰囲気で決めた、逃げるように決めた。3年で3回転職した候補者の経歴は、市場で評価されにくくなる。
「動かない方がいい」と言えるエージェントが、いまの市場では希少です。転職率7.2%という数字は、エージェントにとって追い風であると同時に、安易に動かすことへの警告でもあります(価値あるエージェントの7条件)。
正社員の転職率7.2%(2024年度)は過去最高水準で、14人に1人が1年で会社を変える計算になる。背景には終身雇用の前提の崩壊、転職インフラの整備、心理的ハードルの低下(「一般的な選択肢」79.3%)がある。転職理由の1位は給与の低さで、キャリアアップという表明の裏に現状への不満があることが多い。動くことが簡単になった市場で、エージェントの価値は「動かすこと」から「選ばせること」へ移り、「動かない方がいい」と言えることが希少になっている。
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