スタッフサービスは、「オー人事、オー人事」のCMで知られる人材派遣の会社です。事務職を中心に、技術者、IT、医療・介護、製造と幅広い派遣を手がけ、今はリクルートグループの一員です。
この会社の来歴は、後発の会社がどうやって業界首位に立ち、創業者がその事業をどう手放したかという物語です。人材派遣という事業の構造を理解するうえで、格好の材料になります。
岡野保次郎氏は1951年、京都府福知山に生まれました。1978年に上智大学を卒業して住友建設(現三井住友建設)に入社し、1981年、31歳のときに独立します。
1981年11月、京都市中京区のビルの一室で、事務処理サービスを目的とした事業が始まりました。机と電話しかない部屋に、一人。同社の沿革は、創業者が「いま持っているものを全部つぎ込み、明日のために使う」という意気込みでゼロから始めたと紹介しています。
当時はまだ、労働者派遣法がなかった時代です。派遣法の施行は1986年。事業は制度が整う前に始まり、制度とともに育っていきました。
創業した1981年には、すでにテンポラリーセンター(現パソナ)や、テンプスタッフ(現パーソル)、日本法人のマンパワーなど、先行する派遣会社がいくつもありました。スタッフサービスは明らかに後発です。
後発の同社が力を入れたのが、独自の営業手法と営業組織でした。派遣は、企業からの求人と、登録している働き手の両方をどれだけ抱えているかで決まる事業です。拠点を増やし、担当者を増やし、案件を数で押さえる。規模そのものが競争力になります。
ただし、成長は一直線ではありませんでした。1990年代初めのバブル崩壊では、同社も規模の縮小を迫られています。景気の波をまともに受けるのも、派遣という事業の性質です。
1997年に始まった「オー人事、オー人事」のCMは、フリーダイヤルの番号(0120-022-022)にかけた言葉遊びでした。職場の派閥争いや接待など、働く人の苦労をシュールに描いたシリーズで、2003年までに44作品が作られ、流行語にもなりました。
人材サービスは、必要になった瞬間に思い出されなければ選ばれません。企業の担当者が「急に人が足りない」と困ったとき、働き手が「仕事を探したい」と思ったとき。そのときに浮かぶ名前と番号を作ることが、このCMの狙いでした。
2017年には、CM開始20周年を記念して、時代背景を現代に合わせた新作も作られています。一つの言葉が、20年たっても会社の顔であり続けた例です。
1996年以降、同社は強い営業組織とCMの効果で急成長し、2000年には人材派遣業界のトップに立ったと評されています。創業から20年足らずで、先行企業を追い抜いたことになります。
出所:リクルートによる買収時の報道(2007年)。数値は当時公表されたもの。
2007年3月期の数字を見ると、登録スタッフは約157万人、国内の事業所は201拠点にのぼります。働き手の母数と拠点の数が、そのまま事業の強さになっていたことがわかります。
2007年12月、リクルートがスタッフサービス・ホールディングスの買収を発表しました。創業者の岡野氏が持つ株式(発行済株式の約80%)を取得し、子会社にするというものです。
当時のリクルートは、求人広告や人材紹介では国内トップでしたが、派遣事業に限ると業界5位にすぎませんでした。業界1位を5位が買う形で、リクルートは業界2位のパソナの2倍以上の規模を持つ、圧倒的な首位グループになりました。
岡野氏が手にした売却額は、報道では約1,700億円とされています。岡野氏は一部の経営陣とともに会社を離れ、別の事業を始めました。作った事業を、自分で続けるか、託すか。創業者にとっての大きな選択の例です。
その後、スタッフサービスはリクルートグループの派遣事業の中核として続いています。リクルートの創業ストーリーとあわせて読むと、リクルートが派遣という領域をどう手に入れたかが見えてきます。
スタッフサービスの来歴は、人材派遣という事業の構造を説明するのに向いています。
| 要素 | 中身 | スタッフサービスの場合 |
|---|---|---|
| 働き手の母数 | 登録スタッフをどれだけ抱えるか | CMと拠点網で約157万人 |
| 求人の母数 | 企業からの依頼をどれだけ押さえるか | 営業組織の作り込み |
| 思い出される力 | 困った瞬間に名前が浮かぶか | 「オー人事」 |
| 景気の影響 | 不況で需要が縮む | バブル崩壊で規模を縮小 |
人材紹介の会社にとっても示唆があります。求人を持っていることより、候補者に会えることのほうが難しい時代です。働き手の母数をどう集め、思い出される名前をどう作るか。スタッフサービスが30年以上前に取り組んだ課題は、今も変わっていません。
「スタッフサービスは、後発ながら営業組織の作り込みで業界トップになった会社です。人材ビジネスで何が勝敗を分けるのかを、現場で体感できる環境だと思います。」
派遣会社の営業は、企業の人手不足と働き手の希望を日々つなぐ仕事です。量をこなす中で、人材ビジネスの基本構造が身につく点は、キャリアの初期に経験する価値として説明できます。
派遣会社を選ぶときは、会社の知名度より、扱う職種、拠点の近さ、担当者のフォロー、研修や資格支援、紹介予定派遣の有無を比べることが大切です。大手ほど求人の数は多い一方、担当者一人あたりの人数も多くなりがちです。
あわせて、テンプスタッフ、パソナ、マンパワーグループの成り立ちも押さえておくと、派遣会社の違いを説明しやすくなります。
スタッフサービスは1981年、岡野保次郎氏が京都のビルの一室で一人で創業した人材派遣会社である。後発ながら営業組織の作り込みと「オー人事」のCMで働き手と求人の母数を押さえ、2000年に業界トップに立った。2007年に業界5位のリクルートが買収し、創業者は事業を手放したが、会社はリクルートグループの派遣事業の中核として続いている。