人材紹介の売上を「今月の決定数」だけで見ると、毎月ゼロから集客をやり直すビジネスになります。1人の候補者との関係を10年で設計すると、事業の構造が変わります。
手数料100万円の決定を1件取ることと、その候補者と10年の関係を築くことの価値は、まるで違います。彼/彼女はキャリアの中であと2〜3回転職し、友人や部下の転職相談を受け、やがて自身が採用する側(マネージャー、事業責任者、経営者)になります。この全てが、最初の1決定の後の関係から生まれる収益機会です。
LTVで考えると、意思決定の基準が変わります。目先の決定を無理に作る(意向の低い求人に押し込む)ことは、初回売上と引き換えに残りの生涯価値をすべて捨てる、最も高くつく選択だと分かります。
決定の瞬間、多くのエージェントは次の候補者に走ります。だからこそ、入社後フォローは最も競合がいない差別化になります。運用は3点だけ:入社30日(立ち上がりの様子を聞く。ギャップの早期検知)、90日(試用期間明け。定着の確認と、必要なら企業側への橋渡し)、1年(近況と、キャリアの定期健診)。それぞれ15分の電話かメッセージで十分です。
フォローには保険の意味もあります。早期離職の兆候を検知できれば、企業との返金トラブルを防ぎ、候補者の次の一手も一緒に考えられる。放置して3ヶ月後に退職を知るのとは、全ての結果が変わります。
| タイミング | やること | 狙い |
|---|---|---|
| 入社30日 | 立ち上がりヒアリング(15分) | ギャップの早期検知・調整 |
| 入社90日 | 定着確認・企業への様子共有 | 早期離職の予防・企業信頼の獲得 |
| 入社1年 | キャリア定期健診 | 次の転機の1番手の座・紹介の自然発生 |
| 以降 年1回 | 近況と市場情報の提供 | 10年関係の維持コストは年1時間 |
「良い支援をすれば紹介は自然に来る」は半分だけ正しい。満足していても、紹介はきっかけがなければ発生しません。1年後フォローの雑談で「周りで転職を考えている方がいたら、私の使い方を教えてあげてください」と窓口を明示する。それだけで紹介の発生率は変わります。
もう一つの転化が企業化です。支援した候補者が数年後にマネージャーになり、「今度は採用を手伝ってほしい」と連絡してくる。候補者データベースは、時間とともに決裁者データベースに熟成する。これがLTV経営の最も大きな果実です。熟成の条件はただ一つ、関係が切れていないこと。
LTVを唱えても、評価指標が今月の決定数だけなら現場は変わりません。追加すべき指標は、①入社後フォロー実施率 ②リピート決定数(過去支援者の再転職)③紹介経由の新規面談数 ④支援者からの求人案件数。この4つが伸びているなら、事業の集客構造は年々楽になっているはずです。
落とし穴は、LTVを「囲い込み」と取り違えることです。他社で転職した方が良い場面で自社に固執する、他エージェントの利用を牽制する。これらは短期の売上のためにLTVを毀損する行為です。本人の利益を常に優先することが、結果的に生涯の1番手であり続ける唯一の方法です。
候補者LTV = 初回決定 + Σ再転職 + Σ紹介 + 企業化案件。全ての項の係数は「決定後も関係が続いているか」。フォローの有無で0にも数倍にもなる。
人材紹介は1決定の商売ではなく、10年の関係業。30日・90日・1年のフォローをカレンダーに載せ、紹介の窓口を明示し、候補者台帳が決裁者台帳に熟成するのを待つ。目先の押し込み1件が、その全てを消すことも忘れずに。
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