人材紹介会社を立ち上げる相談で、最初に聞かれるのは「許可は難しいのか」です。答えは要件は明確で、準備すれば取れる。難しいのは許可ではなく、許可の先。売上ゼロの期間をどう耐え、求人と候補者をどう集めるか。です。この記事は、許可の3要件を正確に整理したうえで、独立を考えるエージェントが本当に詰まる場所まで書きます。
※本記事は職業安定法および厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」等の公表情報に基づく一般的な解説です。要件や運用は改正・地域により変わるため、申請前に管轄の都道府県労働局、または社会保険労務士・行政書士にご確認ください(2026年9月時点)。
人材紹介の起業には、大きく3つの形があります。どの形を選ぶかで、必要な資金も、最初にやるべきことも変わります。
自分で許可を取り、両面型で企業と候補者の両方を担当する。固定費を抑えやすい
向いている人:担当業界の企業との関係と、候補者の集め方をすでに持っている人2〜3人でRAとCAを分けたり、領域を分けたりして立ち上げる。成長は速いが人件費がかかる
向いている人:役割を補い合える仲間がいる人人材以外の事業を持つ会社が、顧客基盤を生かして紹介事業を始める
向いている人:既に取引先や顧客のネットワークを持つ会社| 決めること | 考えるポイント | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 支援する領域 | 自分が深く知っている業界・職種。候補者の年収帯で単価も決まる | 「何でも扱える」ことを強みにして、どこでも勝てない |
| 求人の集め方 | 前職の取引先、業界の人脈、紹介。まず「決まる求人」の棚をつくる | 求人を集めずに、候補者集めから始めてしまう |
| 候補者の集め方 | スカウト媒体、SNSでの発信、紹介。費用と手間のバランス | 媒体費をかけすぎて、決定前に資金が尽きる |
支援する領域の決め方は人材紹介事業の立ち上げ(12か月ロードマップ)、集客は集客チャネル設計で詳しく扱っています。
人材紹介(有料職業紹介事業)は、職業安定法に基づき厚生労働大臣の許可を受けなければ行えません(職業安定法30条)。無許可で紹介を行い手数料を得れば、罰則の対象です。
「知人を企業に紹介して謝礼をもらう」も、反復継続すれば紹介事業に該当し得ます。フリーランスとして活動する場合も、自分で許可を取るか、許可を持つ会社に業務委託で所属するかのどちらかが必要です(フリーランス・業務委託エージェントの記事)。
許可は事業所所在地を管轄する都道府県労働局に申請します。ハローワークではありません。審査は書類審査と事務所の実地調査で行われ、通過すれば厚生労働大臣名の許可証が交付されます。
資産要件は、二つの数字で構成されます。
一つ目は基準資産額 ≧ 500万円 × 事業所数。基準資産額とは、資産総額から負債総額・繰延資産・営業権(のれん)を差し引いた額です。純資産に近い概念で、直近の事業年度の決算書で判定されます。
二つ目は自己名義の現金・預金 ≧ 150万円 + 60万円 ×(事業所数 − 1)。1事業所なら150万円。会社名義の預金が対象です。
実務上の落とし穴が3つあります。まず、融資は資産に含まれません。借入金は負債として差し引かれるため、500万円を借りても要件は満たせず、自己資金が要ります。次に、設立直後は資本金で判定されます。決算期を迎えていない法人は資本金の額で判断されるため、資本金500万円以上で設立すればそのまま要件を満たします。そして、500万円は「保有を示す」要件であって「使ってよい資金」ではない。許可後も基準を下回れば更新で問題になりますから、運転資金は別に必要です。
| 要件 | 1事業所の場合 | 判定の根拠 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 基準資産額 | 500万円以上 | 直近決算書(設立直後は資本金) | 融資・借入は負債として差し引かれる |
| 現金・預金 | 150万円以上 | 会社名義の残高 | 個人名義は不可 |
| 複数事業所 | 500万円×事業所数 / 150万円+60万円×(n−1) | 同上 | 事業所を増やすほど要件が上がる |
事務所要件は、かつて「事業に使用できる面積20㎡以上」が原則でした。現在は緩和され、20㎡は要件を満たす経路の一つであり、本体は「求職者のプライバシーを保護して対応できる構造」です。
具体的に確認されるのは、①個室または間仕切りで面談内容が外に漏れない構造 ②鍵付きキャビネットなど個人情報の保管設備 ③事業所の独立性(他社と共用でないこと、社名表示があること) ④風俗営業が密集する場所でないこと。
近年はオンライン面談専業や予約制のスモールオフィスでも許可が出る例が増えています。ただしその場合、運用が申請内容を外れると許可取消しの対象になる許可条件が付くことがあります。自宅開業やレンタルオフィスを考える場合は、申請前に労働局へ事前相談するのが確実です。
実地調査では、職業紹介責任者の席、面談スペース、キャビネット、社名表示が実際に確認されます。「書類上は揃っているが現物がない」は通りません。
事業所ごとに職業紹介責任者を専任で置く必要があります。従事者50人につき1人以上。責任者の条件は4つです。
職業安定法32条の欠格事由(一定の犯罪歴、破産手続中など)に該当しないこと。3年以上の職業経験があること(業種は問われません)。申請受理日の前5年以内に、厚労省指定機関の職業紹介責任者講習(1日)を修了していること。そして責任者の業務に専念できること(他社の役員を兼務している場合は要注意)。この4つです。
講習は全国民営職業紹介事業協会などが実施し、受講料は8,800〜13,000円程度、オンライン受講も可能。開催日程が決まっているため、申請時期から逆算して受講しないと、それだけで申請が数か月遅れます(職業紹介責任者講習の記事で詳しく扱っています)。
加えて、個人情報管理規程と業務の運営に関する規程を整備し、手数料表を届け出る必要があります。手数料は届出制(上限50%が一般的)と上限制(10.8%)から選びますが、実務上はほぼ届出制です(個人情報の取り扱い)。
法定費用は登録免許税9万円+許可手数料(収入印紙)5万円=14万円(1事業所)。2事業所目以降は手数料1万8,000円が加算されます。これに講習費1万円強が加わります。
社労士・行政書士に申請を代行してもらう場合、報酬は事務所によって幅がありますが、20〜40万円程度が目安です。書類の不備で差し戻されると数週間単位で遅れるため、初めての場合は代行を使う合理性があります。
期間は、申請から許可まで概ね3〜4か月。ただしこれは申請「後」の期間で、その前に法人設立、資本金の確保、事務所契約、講習受講、規程の整備があります。独立を決めてから紹介事業を始められるまで、現実には半年程度を見ておくべきです。
許可後も義務があります。毎年の事業報告書の提出、手数料表の変更届、責任者の変更届、そして許可の更新(新規3年、以後5年)。これを怠ると、許可の取消しや更新拒否の対象になります。
ここまでが「許可」の話です。実務者として断言しますが、独立して失敗する人の大半は、許可ではなく許可の先で詰まります。
まず、求人がない。独立直後、企業から求人を預かれるかどうかがすべてです。前職で担当していた企業を持ち出すことは契約上できない場合が多く、ゼロから開拓することになります。「候補者はいるが紹介先がない」状態は、独立エージェントの最も典型的な失敗です(求人開拓の記事)。
次に、候補者が来ない。大手のような広告費はかけられず、スカウト媒体の利用料も負担になります。独立エージェントが現実的に頼れるのは紹介(リファラル)と、特定領域での専門性です。「何でも扱う」独立エージェントに、候補者は来ません(差別化戦略)。
そして、売上ゼロの期間。初回の面談から入社・入金まで、最短でも3〜4か月かかります。つまり開業から半年は売上がないのが普通です。資産要件の500万円とは別に、この期間の運転資金(最低でも生活費6か月分+固定費)を用意していないと、許可を取っただけで終わります。
最後に、返金リスク。せっかく決まった候補者が早期離職すれば、手数料の一部または全額を返金する契約が一般的です。独立直後の1件の返金は、経営を直撃します(契約書の読み方)。
したがって独立の判断は、「許可が取れるか」ではなく「開業後半年、求人と候補者をどこから持ってくるか」で行うべきです。在職中にその答えを持てないなら、まず業務委託エージェントとして許可事業者の傘下で始める方が、リスクは小さくなります。
人材紹介は成功報酬なので、候補者が入社して初めて売上が立ちます。求人を集め、候補者と出会い、選考を経て入社するまでには時間がかかり、さらに入社の翌月以降に入金されるのが一般的です。
つまり、最初の数か月は売上がない前提で資金を用意する必要があります。そして許可の要件である基準資産500万円・現金預金150万円は「保有しておくべき財産」です。これを運転資金に使ってしまうと、許可の更新のときに要件を満たせなくなるおそれがあります。
1件あたりの手数料は厚生労働省「令和6年度職業紹介事業報告書の集計結果(速報)」。件数と売上は計算例。
有料職業紹介の許可は、基準資産額500万円・現金預金150万円という資産要件、プライバシーを保護できる事務所要件、講習受講を含む職業紹介責任者の4条件を満たせば取得できる。法定費用は14万円、申請から許可まで3〜4か月、準備を含めて半年が目安になる。しかし独立の成否を決めるのは許可ではなく、開業後半年の売上ゼロ期間に求人と候補者をどこから持ってくるかであり、その答えを持てないなら業務委託から始める選択が現実的である。
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