求人倍率が9倍を超える市場で、即戦力を待ち続けても採れません。その結果、多くの企業が「育てる前提で採る」方向へ切り替えています。ポテンシャル採用の拡大は、候補者にとっては異業種へ移る窓が開いたことを意味します。ただし、誰でも通るわけではありません。
※出典:厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「労働力調査」、doda・パソナ等の公表データと、それに基づく編集部の整理です(2026年9月時点)。
ポテンシャル採用が広がった理由は、企業の善意ではありません。即戦力が市場にいないからです。
転職求人倍率が業種によって7〜10倍という状況では、「経験者だけを待つ」戦略は、採用ができないことと同義です。1人の経験者を9社が取り合い、条件で競り負ければ何年も採れません。
そこで企業が取ったのが、母集団を広げるという選択です。必須要件から「業界経験」を外し、「近い経験」や「学習意欲」で採る。入社後にリスキリングで戦力化する。
この転換を支えているのが、政府のリスキリング補助金と、社内のブートキャンプ型研修です。教育のコストが下がったことで、「育てて使う」が計算に合うようになりました(業種別の求人倍率)。
ポテンシャル採用は、すべての職種で等しく広がっているわけではありません。育成の型がある職種ほど、門戸が開いています。
| 職種 | ポテンシャル採用の広がり | 求められる「近い経験」 |
|---|---|---|
| 法人営業(SaaS・人材・広告) | 広い | 無形商材の営業、対人折衝、数字への責任 |
| カスタマーサクセス | 広い | 法人営業、サポート、業務改善の経験 |
| ITエンジニア | 中(育成コストが高い) | 独学の実績、ポートフォリオ、論理的思考 |
| コンサルタント | 中(第二新卒中心) | 事業会社での企画・改善、地頭 |
| 人事(採用) | 中 | 営業、候補者対応、社内調整 |
| 施工管理・生産技術 | 広い(人手不足) | 現場経験、資格取得の意欲 |
| 経理・法務 | 狭い(専門性が前提) | 簿記・資格、実務経験 |
「未経験歓迎」と書いてあっても、誰でも通るわけではありません。企業が見ているのは2つです。
①学習の実績。「意欲があります」では通りません。実際に何を学び、何ができるようになったか。資格、独学の成果物、社内での自主的な取り組み。ここが空白だと、意欲は言葉だけと判断されます。
②近い経験。完全な未経験ではなく、隣接する経験があるかどうか。SaaS営業なら「無形商材の法人営業」、CSなら「顧客対応と業務改善」、エンジニアなら「独学でのプロダクト開発」。企業が求めているのは『ゼロ』ではなく『7割』の人です。
逆に評価されないのは、「今の仕事が合わないから変えたい」という動機だけの人。逃げの転職は、育成投資の回収見込みが立たないため、ポテンシャル枠でも通りません(転職意向を上げる技術)。
ポテンシャル採用が広がったことで、エージェントの提案の幅は確実に広がりました。ただし、3つの確認が必要です。
①候補者の「近い経験」を特定する。「未経験だから無理」ではなく、経歴の中のどの部分が隣接するかを探す。営業なら「誰に・何を・どう売ったか」まで分解すれば、接続先が見えます(営業用語集)。
②企業の育成の実態を確認する。「未経験歓迎」と書いてあっても、研修の中身がなく現場に放り込まれる企業もあります。入社後3か月の育成計画を企業に聞く。これが答えられない企業は、候補者が離職します(採用要件を再定義する)。
③年収の一時的な下落を伝える。ポテンシャル採用では、年収が一度下がることがあります。「3年で戻る、5年で超える」という見立てを示せるかが、候補者の判断を支えます。この見立てがないまま送ると、内定後に辞退が起きます。
転職求人倍率が7〜10倍という採用難の長期化を受け、企業は即戦力志向から「育てる前提で採る」ポテンシャル採用へ切り替えている。政府のリスキリング補助金と社内ブートキャンプ型研修が教育コストを下げたことが、この転換を支えた。ただし評価されるのは「学習の実績」と「近い経験」を持つ人で、企業が求めているのはゼロではなく7割の人材である。エージェントは候補者の近い経験の特定、企業の育成実態の確認、年収の一時的下落の見立てを行うべきである。
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