2000年当時、製薬会社は約5万5千人のMRに医師を訪ね歩かせていました。医師は薬の効能を短時間で知りたいのに、面談は重くて非効率。この双方の不満を、創業の翌月に始めた一つのサービスが同時に解きます。
※本記事は当該企業の公式サイト(沿革・創業ストーリー)、有価証券報告書、Wikipedia日本語版・英語版、経営者インタビュー記事等の公開情報をもとに編集部が構成しました(2026年9月時点)。年次は資料により差異がある項目があり、複数の出典で確認できた年を採用しています。
谷村格は国際基督教大学(ICU)を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ。1999年、34歳でパートナー(共同経営者)に就任します。当時としては大きな抜擢でした。
ヘルスケア領域を担当していた彼は、業界の両側から相反する不満を聞いていました。医師は「薬の効能を短時間で知りたい」。一方で製薬会社は、約5万5千人のMR(医薬情報担当者)に医師を訪ね歩かせており、面談コストが重く効率も悪い。
この構造をどう解くか。彼はソネット(So-net)に一つの提案を持ちかけます。それが、後の主力事業となる「MR君」でした。そして提案を進めるなかで、彼自身がマッキンゼーを辞めて事業をやることになります。
2000年9月、So-netの出資を受けて東京都品川区にソネット・エムスリー株式会社が設立されました。谷村がマッキンゼーから独立しての創業です。
その翌月、2000年10月にMR君のサービスが始まります。これは、複数の製薬会社が一つのサイトを通じて多数の医師に情報を届ける共通基盤でした。医師は必要な情報に短時間でアクセスでき、製薬会社は訪問コストを抑えて情報を届けられる。双方の不満が一度に解ける設計です。
複数の製薬会社が同一プラットフォームを共有するという構造は、当時世界的にも例がありませんでした。
ソネット・エムスリーを設立
マッキンゼーのパートナーだった谷村格が、So-netの出資を受けて東京都品川区に創業しました。
MR君のサービスを開始
複数の製薬会社が一つのサイトから多数の医師へ情報を届ける共通基盤で、主力事業の原型となりました。
医療専門サイトm3.comの運営を開始
2つの医療情報サイトを統合し、ブランドを一本化しました。
東証マザーズに上場
東証一部に上場
製薬向けマーケティング支援が伸び、高い営業利益率で注目を集めました。
海外の医師ポータルを次々に買収
英国・中国・フランスなどの現地ポータルを取り込み、グローバルに医師ネットワークを広げました。
時価総額1兆円を突破
創業から約15年での到達となりました。
エムスリーの主な沿革
2003年7月、2つの医療情報サイトを統合してm3.comの運営を開始。ブランドが一本化され、医師ポータルとしての地位が固まっていきます。
同社の事業は固定費がかかりにくい構造を持ち、製薬企業向けマーケティング支援は50%近い営業利益率をたたき出しました。国内医師のカバー率は2009年時点で約6割、2019年には約9割に達します。
背景には産業構造の変化もありました。医療費削減の圧力からMRの人数は2013年度をピークに減少が続き、製薬会社の営業はインターネットとデータの活用へシフトします。創業時に見た非効率が、業界全体で解消に向かったのです。
社内には戦略コンサルティングファーム出身者が多数在籍し、実力主義の文化で知られます。50を超える事業を抱え、0→1、1→10、10→100とさまざまなフェーズが同居する組織になりました。
Founder's Words
「医師と製薬会社、双方の不満を一度に解く」
谷村格
同社の事業設計を要約する考え方です。片側だけを便利にするのではなく、二つの立場の非効率を一つの仕組みで解いたからこそ、国内医師カバー率9割という圧倒的な地位が築かれました。
エムスリーは、「業界の非効率を、両側から同時に解く」という事業設計の教科書のような会社です。片側だけを便利にするのではなく、医師と製薬会社という二つの立場の不満を一つの仕組みで解いたからこそ、圧倒的なシェアが取れました。
コンサルタントの転職先として同社を提案する場面は多いはずです。その際、創業者がマッキンゼーのパートナーであり、提案を自ら実行するために独立したという文脈は、DeNAの南場智子と並ぶ強い訴求材料になります(DeNAの創業ストーリー)。
エムスリーは2000年、マッキンゼーのパートナーだった谷村格がSo-netの出資を受けて創業した。医師の「短時間で知りたい」と製薬会社の「訪問コストが重い」という双方の不満を、創業翌月に始めたMR君が一つの仕組みで解いた。国内医師カバー率9割超、創業約15年で時価総額1兆円を突破している。
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